合図には、手、手旗等、様々な方法が用いられています。また、必要に応じて無線機が併用されています。合図で最も重要なことは、クレーンの運転士がためらうことなく安全に操作できるように明確で的確な指示を行うことです。
事業者は、クレーンを用いて作業を行う時は、クレーンの運転について一定の合図を定め、合図を行う者を指名し、その者に合図を行わせなければならない。ただし、クレーンの運転者に単独で作業を行わせる時は、この限りでない。合図者の指名を受けた者は、クレーンの作業に従事する時は、定められた合図を行わなければならない。作業に従事する労働者は、その合図に従わなければならない。
クレーン等安全規則第25条
本条は、事業者が合図を行う者を指名し、指名を受けた者が合図しなければならない。クレ
ーンの単独作業の場合は、合図を行う必要がないと規定したものである。
特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われる場合において、当該作業がクレーン等(クレーン、移動式クレーン、デリック、簡易リフト又は建設用リフトで、クレーン規則の適用を受けるものをいう。)を用いて行うものである時は、当該クレーン等の運転についての合図を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならない。特定元方事業者及び関係請負人は、自ら行う作業についてクレーン等の運転について合図を定める時は、統一的に定めらた合図と同一のものを定めなければならない。
労働安全衛生規則第639条
本条は、関係請負人(協力会社)の合図が事業主が定めた合図と異なる場合は、事業主が定めた合図を関係請負人に周知させ、従わせなければならない。関係請負人や労働者は、その指示に従わなければならないと規定したものである。ただし、特定元方事業者は、法律又はこれに基づく命令に違反する指示は行ってはならない。特定元方事業者とは、同一場所で行う事業の仕事を請け負わせている事業者をいう。関係請負人とは、元方事業者の仕事を請け負っている請負人や協力会社をいうものである。
クレーンの運転士に意思を伝える合図には、手、旗、笛、無線機等がある。手による合図は用具を一切必要としない手軽さもあり、広く用いられている。合図で最も重要なことは、定められた合図を定められた合図者によって節度を付けて大きく明瞭に行うことである。合図を行う者は、運転士の見える位置にて運転士の方向を向き、はっきりとした動作で合図を行わなければならない。なお、指定された者以外の合図や複数の者による合図は、クレーンの操作を誤る要因となるため行ってはならない。
1. 合図は、定められた合図者が行う
2, 合図は、節度をつけて明瞭に行う
3. 合図は、運転者の見やすい位置で行う
4. 合図は、安全な場所で行う
手による合図は、クレーンの運転士に意思を伝える基本的な合図である。ここで述べる合図は、玉掛技能講習で実際に行われている合図を基にしている。なお、玉掛技能講習では笛を補助的に使用している。
呼出し | 巻上げ | 巻下げ | 微 動 | |
片手を高くあげて位置を示す | 片手を上にあげて輪を書く又は腕をほぼ水平にして手のひらを上にして上方に振る | 腕をほぼ水平にして手のひらを下にして下方に振る | 小指で微動を指示し、続いて巻上げ又は巻下げの合図 | |
ジブ上げ | ジブ下げ | ジブの伸ばし | ジブの縮め | 水平移動 |
親指を上に 他の指は握り、水平より上に突き上げる | 親指を下に 他の指は握り、水平より下に突き下げる | 拳を頭の上に乗せた後、親指を上に他の指は握り、水平より斜め上に突き上げる | 拳を頭の上にのせた後、親指を下に、他の指は握り、水平より斜め下に突き下げる | 腕を水平に伸ばし手のひらを移動する方向に向けて数回動かす |
転 倒 | 停 止 | 急停止 | 作業完了 | |
両手を平行に 伸ばし、転倒方向に回す | 節度をつけて手のひらを高く上げる | 両手を高く上げ、左右に激しく振る | 挙手の礼又は両手を頭の上で交差させる |
1. 運転士から見える位置で運転士の方向を向き、明確な合図を行う。
2. 微速は、運転士に小指で「ゆっくり」という合図を示した後、巻上げ又は巻下げの合図を
行う。笛を併用する場合は、笛をピッと吹いて小指を示す。
3. 腕を横に水平にとは、腕を前方ではなく、腕を広げるように横に水平近くまで上げる。
4. 片手をあげて輪を描くとは、手首を回すのではなく、腕で輪を描く。右旋回、左旋回と声
を掛ける。
5. 合図は、運転席の運転士の右側を右として指示する。 したがって、運転士に向かい合って
いる合図者がジブを右に旋廻させる場合は、運転士に左旋回と声を掛ける。
笛による合図は、はっきりと聞き分けられるように吹く。
1. 笛の補助合図
呼出し ―――― ピ〜と長く吹く
巻上げ ―――― 巻上げが終了し、停止の合図までピッピッ ピッピッと吹く
巻下げ ―――― 巻下げが終了し、停止の合図までピッピッピッ ピッピッピッと吹く
停 止 ―――― ピッと短く吹く
2. 巻上げ及び巻下げの笛の合図の覚え方
巻上げ巻上げは、「マケ」で2回吹くと覚える
巻下げ巻下げは、「オロセ」で3回吹くと覚える。
旗による合図は、合図者と玉掛作業者間の距離が離れている造船所等で使用されている。
呼出し | 位置の指示 | 巻上げ | 巻下げ |
手旗を高く上げる | 荷の近くに移動し 旗で示す |
手旗を上にあげ 輪を描く |
手旗をほぼ水平にし 左右に振る |
ジブ上げ | ジブ下げ | 水平移動 | 微動 |
手旗を頭部に乗せ 旗を上方に突き上 げる |
手旗を頭部に乗せ 旗を下方に突き下 げる |
移動方向の片手を水 平に、旗を上にして 稼働方向に振る |
手旗と手で微動の距離 を示す |
転 倒 | 停 止 | 急停止 | 作業完了 |
手旗と手を平行に して、転倒の方向 に倒す |
節度をつけて手旗を 斜め上に高く上げる |
手旗と手を高く上げ 激しく左右に振る |
挙手の礼を行う |
合図に無線機を使うことも多く、 声による合図が多く用いられている。ほとんどが誰にでも判る一般用語が用いられているが、一部には専門用語を使用している事業所もある。
指示動作 | 一般用語 | 専門用語 | ||
移動量用語 | 動作用語 | 移動量用語 | 動作用語 | |
巻上げ | ゆっくり 少し |
巻いて | チョイ チョイチョイ |
(コ)ゴーヘイ |
巻下げ | 下げて | (コ)スラー | ||
ジブの上げ | 起こして | オヤゴーヘイ | ||
ジブの下げ | 倒して | オヤスラー | ||
伸 縮 | あと○m | 伸ばして(縮めて) | あと○m | 伸ばし(縮め) |
旋 回 | 右へ(左へ) | 旋回して | 右(左) | 旋 回 |
ゴーヘイの語源は、つり荷を巻上げる合図を意味するGoaheadから来ている。スラー(スライともいう。)は、「下げ」を意味するSlack AwayやSlackenが変化したものである。これらの用語は、単独で用いられることもあるが、「オヤスラー、コゴーヘイ」のように組み合せて用いられている。
「オヤスラー、コゴーヘイ」は、ジブを倒しながら巻上動作を行う荷の水平移動の合図になる。巻上装置の主巻用フックを親、補巻用フックを子というが、この場合の「オヤ」はジブ動作を指し、「コ」はフックの動作になる。したがって、ジブを起こしながらの巻下動作は「オヤゴーヘイ、コスラー」となる。鉄骨ボルトの穴合わせ等では、チョイスラー等の移動量用語が加わる。
オヤゴウヘイ、コスラー (ジブを起こしながらフックを降ろせ)
オヤスラー、コスラー (ジブを倒しながらフックを降ろせ)
コゴウヘイ、オヤスラー (フック巻上げながらジブを倒せ)
右旋回、コスラー (右旋回しながらフック降ろせ)
クライミングクレーンやケーブルクレーンは、移動量用語としてノッチを用いて指示したり巻上げをアップ、巻下げをダウン、停止をストップと指示することがある。また、ジブの起しをヘッド、倒しをテール、ジブの停止をラック、旋回の停止をトラベルという場合がある。その他に、ジブが行き過ぎた時には「すぎやま〜」という。英語圏の国では、次のような合図が用いられている。
少し巻く (アップ1) 少し下げる (ダウン1)
ゆっくり巻く (アップ2) ゆっくり下げる (ダウン2)
一気に巻く (アップ3) 速く下げる (ダウン3)
横 行 (ノース1、サウス1)