クレーンを安全に使用するためには、作業の標準化ならびに維持管理を充実させる必要があります。また、運転士自身が正しい知識を有し、 運転方法や整備の技量を向上させる努力を積み重ねることが重要です。
クレーンの一般的な作業手順は、 次に示す通りである。不特定多数の運転士が運転する床上運転式クレーンや床上操作式クレーン等の場合は、 作業開始前や作業終了時の点検を実施する者が明確でないことがあるため、あらかじめ点検担当者を指定しておく必要がある。
1.作業を開始する前に打ち合せを行う。
2.作業場や運搬経路の状態を確認し、作業開始前の点検を実施する。
3.主トロリ線等の電源を投入し、クレーンの電源を投入する。
4.クレーンの作動を確認する。
5.クレーンの運転業務を実施する。
6.クレーンを所定の待機位置や状態に戻して電源を切る。
7.作業終了後の点検を行う。
8.運転日誌等に記帳して運転終了を上司に報告する。
クレーンを安全に運転するためには、クレーンの性能を理解し、法令を遵守した運転に努め、業務を通じて技量を向上させることが重要である。クレーンの運転士は、事前に作業関係者と打ち合わせや引き継ぎを行い、次に挙げる事項を遵守しなければならならない。
1 | 整備不良及び検査証の有効期間が切れたクレーンを用いて作業を行ってはならない。 |
2 | 指定された者以外は、クレーンを運転してはならない。また、玉掛作業に従事する者は資格を有する者でなければならない。 |
3 | 作業を開始する前にクレーンの点検を実施し、アンカーやレールクランプ等の固定装置が装備されているものは解放されていることを確認する。 |
4 | クレーンのフックは、荷の重心の上に移動させる。荷の重心の真上にフックがない場合は、荷を巻上げた時に荷振れが生じる。このため、ワイヤロープが張るまではインチング運転を行い、ロープが張った時点で巻上げを一旦停止し、重心位置が適切であることを確認して地切りを行う。ただし、必要以上のインチング運転は機械部分や電気系統の寿命を縮めるため適正な運用を心掛ける。 |
5 | つり荷の斜め引き、ジブの越し操作による地切り、旋回操作による荷の引き込みは、ワイヤロープの切断やジブの折損及び荷揺れ等の恐れがあるため、行わない。 |
6 | 荷の質量が定格荷重を超えている場合は、運転を中止して作業責任者や玉掛作業者に連絡する。 |
7 | 天井クレーンの巻上げ、横行、走行、ジブクレーンの巻上げ、起伏、旋回等の操作を3つ同時に行ってはならない。 |
8 | クレーンを全速から急激に停止させる運転や、いきなり全速にノッチを入れる運転は行わない。 |
9 | 電動機が慣性で回転している時は、危険を回避する目的以外での逆転制動は行わない。逆転制動は荷振れやつり荷の落下の原因となり、クレーンの機械部分や構造部分に大きな衝撃が掛かる。このため、クレーンを逆方向に運転する時は電動機が停止してから逆転しなければならない。 |
10 | つり荷は、一定の高さ(原則2m)につり上げ、安全通路や作業者の頭上を避けて運搬する。運転を開始する時及び危険を感じた時には、警報を鳴らして周囲に注意を促す。 |
11 | クレーンで作業者をつり上げ、そのまま作業さたり運搬してはならない。また、原則としてつり荷の下に人を立ち入らせてはならない。 |
12 | 巻上げを巻過防止装置によって停止させてはならない。 フックを巻下げる時は、巻下げ過ぎないように注意しなければならない。 |
13 | 玉掛用ワイヤロープをつり荷から外す時は、クレーンの巻上操作によってロープを引き抜いてはならない。玉掛用ワイヤロープを取外す時は、必ず手で引き抜く。 |
14 | つり荷を着床させる時は、低速で巻下げ、床から30cm程度の高さに一端停止する。その後合図者の合図に従って荷を静かに下ろし、着床したところで一端停止し、荷のすわり具合を確認した後にフックを下ろして玉掛用ワイヤロープを取り外す。 |
15 | 揚程が足らないからといって、過過防止装置を取り外したり機能を停止したりしてはならない。 |
16 | 荷をつったまま運転位置から離れてはならない。運転位置から離れる時は、つり荷をフックから外してクレーンの電源を切る。 |
17 | 運転中に停電した時は、すべてのスイッチを停止位置に戻し、主電源を切って送電の回復を待つ。運転中に地震を感じた時は、速やかにつり荷を降ろし、電源を切って地震が収まるのを待つ。 |
18 | 作業終了後は、定められた位置にクレーンを停止してフックブロックを障害にならない高さに巻上げ、アンカーを作動させて主電磁接触器の主電源や各スイッチを切り、確実にOFFにしたことを確認する。また、各部の点検や給油を行って異常の有無を確認し、作業責任者に報告する。 |
屋外に設置されているクレーンは、天候の影響を受けるため、気象情報に注意しなければならない。
1.強風(10分間の平均風速が10m/s以上の風)が吹く恐れのある時は、つり荷に振れや
回転が発生して作業者等に狭圧や衝突災害を起こさないように作業を中止しなければな
らない。
2.瞬間風速が30m/sを超える恐れがある時は、クレーンの逸走を防止する処置を講じな
ければならない。ジブクレーンは、ジブを堅固なものに固定又はジブの安定を保持する
傾斜角にジブをセットする等、風により自由にジブが流される処置を講じる。
3.瞬間風速が30m/sを超える風が吹いた後に作業を行う時又は中震以上の震度の地震後
に作業を行う時は、あらかじめクレーン各部の異常の有無の点検を行う。
4.ひと降りの雨量が50mm以上の時は、運転室の視界が悪く玉掛作業者の足元が滑りやす
くなる等の不安全作業による危険が予測されるため作業を中止する。作業を再開する時
は、雨の影響によるブレーキの滑りを防止するためにブレーキライニング等を乾燥させ
る。
5.雷が接近した時は、作業を中止して退避する。万一、クレーンに落雷した時は、過負荷
防止装置や落雷の通過部分の点検を雷が止んだ後に行う。
6.降雨又は積雪の作業では、横行レールや走行レールが濡れて車輪がスリップしやすくな
るため、起動や停止には十分注意する。
気象庁では、風力を階級で示すために気象庁風力階級表が用いられている。気象通報でいう風速とは、周囲100m程の間に障害物がない地面上10mの風速計によって10分間観測した平均値をいう。最大風速は平均値の最大値で、瞬間風速、平均風速の1.5〜1.7倍程度速くなる。また、風力8 以上を台風という。
風 力 | 名 称 | 風速(m/s) | 陸上における風の状態 |
0 | 静穏 | 0.3未満 | 煙がまっすぐ昇る |
1 | 至軽風 | 0.3〜1.6 | 煙のたなびきで風向きが分る |
2 | 軽風 | 1.6〜3.4 | 顔に風を感じる |
3 | 軟風 | 3.4〜5.5 | 木の葉や細い小枝がたえず動く |
4 | 和風 | 5.5〜8.0 | 砂ぼこりが立ち、紙片が舞い上がる |
5 | 疾風 | 8.0〜10.8 | 葉のある木が揺れ始める |
6 | 雄風 | 10.8〜13.9 | 大枝が動き、傘がさしにくい |
7 | 強風 | 13.9〜17.2 | 風に向かって歩きにくい |
8 | 疾強風 | 17.2〜20.8 | 小枝が折れ、風に向かって歩けない |
9 | 大強風 | 20.8〜24.5 | 煙突が倒れ、瓦がはがれる |
10 | 暴風 | 24.5〜28.5 | 人家に大損害が起こる |
11 | 激風 | 28.5〜32.7 | 広範囲の破壊を伴う |
12 | 颶風 | 32.7 以上 |
コントローラや押しボタンスイッチは、 誤動作を起こさないように作動の内容や運動方向を表示し、運転する時は進行方向の安全を確認して警報を鳴らしてクレーンを作動させる。
1.コントローラや押しボタンスイッチ等は、確実な操作を行う。
2.クレーンの衝撃は、損傷や事故の原因になる。緩衝装置は、ブレーキの作動が遅れた時の
最終的な端部制限緩衝装置であるため、クレーンやトロリを衝突させて停止させる運転や
急激な加速を行ってはならない。
3.作業者がクレーンガーダに上がる時には、作業者の転落、狭圧、衝突災害等を防止するた
め、クレーンの電源を切ると共に点検中の表示をする等の安全対策を施す。
床上で運転する無線操作式クレーンは、つり荷の状態を直接確認でき、しかも安全な場所を選んで運転することができる利点がある。しかし、取扱いが容易なために予想もしない災害を起こす恐れがある。このため、無線操作式クレーンを取扱う場合には次の事項に留意しなければならない。
1.制御器の電池の充電状態を確認する。
2.無線操作運転表示ランプが確認できる位置で制御器のキースイッチを入れ、表示ランプの
点灯によって運転するクレーンであることを確認する。
3.非常停止ボタンを押して電源が切れることを確認する。 制御器を倒した時に電源が切れる
構造のものは、制御器を指定角度に倒して電源が切れることを確認する。
4.歩行しながらの運転は避け、やむを得ない場合は平坦で安全な通路を歩行する。
5.運転士自身が玉掛作業を行う時又は一時中断する時は、誤動作を防ぐために制御器の電源
を切る。
6.運転中につり荷が死角に入った時は運転を一旦停止し、つり荷の見える位置に移動する。
操作位置によっては、クレーンの作動方向を間違える恐れがあるため、十分に注意しなけ
ればならない。
7.作業終了によってクレーンを停止する時は、制御器からキースイッチを抜き、他の者に勝
手に取扱われないように所定の場所に保管する。
起伏するジブを有するジブクレーンは、ジブの傾斜角によって定格荷重が変わるため、クレーンの性能曲線や性能を十分に理解しなければならない。
1.指定されたジブの傾斜角の範囲を越える起伏を行わない。
2.巻過防止装置、過負荷防止装置、傾斜角制限装置等の安全装置を常に有効に
し、装置の表示や警報に注意する。
3.ジブクレーンのジブは、ジブ長さとつり荷の質量に比例してたわみが生じ
る。たわみが生じると、作業半径が大きくなって定格荷重が小さくなる。つり荷を地切り
した時にジブがたわむと、 作業半径が拡大した分だけ荷が移動し、玉掛作業者を狭圧等の
災害に巻き込む恐れがあるため、十分に注意する必要がある。
4.旋回速度が速くなると、遠心力によってつり荷が外側に飛び出そうとし、作業半径が大き
くなる。つり荷は慣性よってその状態にとどまろうとするため、旋回や停止は慎重に行い
荷振れを起こさないように注意しなければならない。
ケーブルクレーンは、設置場所や作業工程の条件に応じたスパン、揚程、つり上げ荷重等を検討し、クレーンの仕様を決定している。
1.組み立て及び解体による災害の発生が多いため、関係各位と十分に打ち合せ
を行い、作業手順に従った安全な作業に努める。
2.ケーブルクレーンのメインロープは、 つり荷の質量やトロリの位置によって
大きくたわみ、横行速度は天井クレーンと比べて速いため、荷振れに注意し
なければならない。
3.ケーブルクレーンは、つり荷の状態を運転位置から確認でない場合が多いため、合図者と
の連絡を密にして確実な運転を行う必要がある。
クレーンの運転において、つり荷の振れによる災害を起こさないために次の荷振れの性質を十分に理解しておく必要がある。
1.走行、横行の加速や減速が大きいほど、振れ幅は大きくなる。
2.巻上ロープが長いほど、振れ幅は大きくなる。
3.巻上ロープが長いほど、振れの周期は長くなる。
4.つり荷の質量と振れの周期は、関係がない。
追いノッチ操作は、クレーンの横行や走行の起動及び停止時の荷振れ防止に有効である。図Aの停止したクレーンを作動させると、慣性によってつり荷は一瞬遅れて動き出し、Bの状態になる。この時、クレーンを減速させると、つり荷はCのようにほぼ垂直になる。つり荷が垂直になる寸前に再びクレーンを作動させると、つり荷は振れることなく移動させることができる。横行中又は走行中のクレーンDを停止させると、つり荷は慣性によって動き続けようとしてEの状態になる。つり荷が振り切れる直前にクレーンを一瞬動かすとクレーンの移動によってFの状態になり、つり荷の振れを抑えて停止させることができる。
巻上用ワイヤロープを巻過ぎると、フックブロックがジブ等に激突してフックブロック、シーブ、ジブの破損、巻上用ワイヤロープの切断、つり荷の落下等を招く恐れがある。このため、クレーンには巻過防止装置が設けられている。クレーンを運転する時は、巻過防止装置や警報装置が有効に作動することを確認し、巻上用ワイヤロープの巻過ぎに注意して運転すると共に、警報が鳴った時には直ちに巻上げを停止しなければならない。
巻上用ワイヤロープを巻下げ過ぎてフックブロックが地面に着地すると、巻上用ドラムのワイヤロープが緩んで乱巻きになる。このため、巻上用ワイヤロープを緩めるような運転は行ってはならない。万一、巻下げ過ぎによって巻上用ワイヤロープが緩んだ時には直ちに運転を停止し、ドラム側の巻上用ワイヤロープに張力を掛けながら巻き戻す必要がある。
図Aの正常な状態から図Bのように捨て巻きがなくなるまで巻上用ワイヤロープを巻下げた場合は、ワイヤロープの取付部に大きな力が掛かり、ワイヤロープが抜け落ちる等の恐れがある。捨巻き分以上に巻上用ワイヤロープを巻下げ続けると、図Cのように巻上用ワイヤロープが逆巻きになり、つり荷は巻上がる。このため、巻下げ過ぎ防止装置がないクレーンの巻上用ワイヤロープを下限近くまで巻下げる時は、特に注意しなければならない。