三相誘導電動機

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 直流電動機には整流子やブラシが必要ですが、交流を用いる誘導電動機はこれらを必要としません。したがって、誘導電動機は直流電動機と比べて構造が簡単で寿命が長い。しかし、単相誘導電動機のパワーは直流電動機より劣る。そこで考案されたのが、1つの回転子を3つの交流により回し、大きな力を得ることができる三相得誘導電動機です。

三相誘導電動機の概要

 三相誘導電動機は、クレーン、デリック、一般産業機械に広く使用されている。三相誘導電動機の固定子側(ステータ側)は一次側、回転する回転子側(ロータ側)は二次側という。三相誘導電動機には、かご形と巻線形があり、一次側はどちらも巻線です。

 ● かご形三相誘導電動機

 かご形三相誘導電動機の回転子は、回転子鉄心の周りに太い銅線(バー)がかご形に配置された極めて簡単な構造で、電動機の一次側の固定子に電流を流すと、回転する磁界(磁力のおよぶ場)が発生し、かご形に配置された二次側の太い導線(バー)に誘導電流が流れて回転子が回転する。かご形三相誘導電動機は、一次側の電圧や周波数を変化させて速度を制御することができるため一次側に抵抗器やリアクトルを入れて速度を制御する方法が用いられている。また、安定した低速を得るために一次側に極数の異なる巻線を2〜3 組設け、これを切替えて任意の速度を得る極数変換法を用いているものもある。これらの制御方式は、巻線形三相誘導電動機に比べると速度性能が劣るため、ホイストや電動機容量の小さい15kW 以下のクレーンに使用されている。デリックは、電動機を一定方法に回転させ、機械的なクラッチの入切及びブレーキによって操作するものが多く、クレーンのように正転、逆転、停止、速度制御等を頻繁に繰り返えして使用することがないため、経済的なかご形三相誘導電動機がデリックに多く使用されている。

             

 ● 巻線形三相誘導電動機

 巻線形三相誘導電動機の二次側の回転子は一次側と同じ巻線になっている。 回転子のそれぞれのコイルは、スリップリングを介して外部抵抗(二次抵抗)に接続されている。電流は、二次抵抗を通り、ブラシ(回転するスリップリングに接触して電流を流す部品)を介してスリップリングに流れて回転子に導かれる。巻線形三相誘導電動機の速度制御は、回転子に流れる電流の大きさを抵抗器によって変え、回転磁界と回転子に発生する誘導電流の相互作用を変化させて制御している。これを二次抵抗制御という。
 二次抵抗制御は、抵抗による損失によって効率は良くないが、起動時に二次抵抗を順次短絡することで円滑な起動を行うことができる。また、負荷が掛かっている時には二次抵抗の加減によってある程度の速度制御が可能なため、起動、停止、正転、逆転、速度制御を頻繁に繰り返すクレーンや大きな始動トルクが必要な場合に使用されている。巻線形誘導電動機は、精度の高い速度制御を行うため、二次抵抗制御と共に電動油圧押上機ブレーキ制御、渦電流ブレーキ制御、ダイナミックブレーキ制御、サイリスタ一次電圧制御等が併用されている。これらの制御法は、高度な制御が要求されるクレーンや大型のデリック等に使用されている。

       

同期速度

 三相誘導電動機の一次側に交流電流を流すと回転する磁界が発生する。これを回転磁界といい、この回転磁界に引きずられて回転子が回転する。回転子が回転する速度を同期速度といい同期速度や極数は次の式で求めることができる。
 電動機の1分間の回転数を表わす単位にはrpm、1秒間の回転数にはrpsが用いられているが、1秒間に1回転する電動機は1分間に60回転するため、1rpsと60rpmは同じ回転数である。
● rpm(1分間当たりの回転数)
● rps(1秒間当たりの回転数)
● 極 (ポールともいう。)

      

 同期速度は、電源周波数に比例し、極数に反比例する。したがって、電源周波数が一定の場合は電動機の極数が多いほど同期速度は遅くなる。60Hzの周波数で運転している三相誘導電動機を50Hzで運転した場合、同期速度は電源周波数に比例するため、この時の回転数は60Hzの電源周波数で運転した時の5/6倍になる。
● 50/60 = 5/6倍

三相誘導電動機の滑り

 三相誘導電動機の回転子が回転磁界と同じ回転をすると、回転子に磁界の時間的変化が生じないため、誘導起電力が発生しない。このため、回転子は回転磁界よりも若干遅くれて回転している。三相誘導電動機の回転子は、回転磁界よりも2〜5%ほど遅く回転する性質があるため非同期電動機と呼ばれている。
 同期速度が1000回転/分の三相誘導電動機の回転子は、実際には950〜980回転/分で回転している。この同期速度より遅くなる割合を滑り(すべり)又はスリップといい、次の式で求めることができる。滑りは、無負荷の時は非常に小さくてゼロに近く、負荷が掛かるほど滑りは大きくなる。ただし、定格負荷でもごく僅かの滑りで、負荷を掛けても速度がそれほど変わらないことが三相誘導電動機の大きな魅力といえる。始動前の回転速度ゼロの状態は、滑りが100%なので、通常「滑り1」として表している。

      

かご形三相誘導電動機の始動方法

 かご形三相誘導電動機の始動には、通常、全電圧始動が用いられ、横行や走行には緩始動が用いられている。

● 全電圧始動

 荷が降下する力が強く働く巻上装置には、通常時の運転よりも大きな力が必要になる。このため、かご形誘導電動機の巻上装置の始動には、通常、全電圧始動が用いられている。全電圧始動は、始動時に電源電圧をそのまま電動機に加える方法で、ラインスタート又は直入れ法と呼ばれている。大容量の電動機に全電圧始動を用いた場合は始動の衝撃が大きいため、小容量の誘導電動機に採用されている。ただし、次のような場合は、全電圧始動が困難な時がある。
1. 始動電流に対して、電源容量が小さい時
2. 始動時の電動機の回転が早すぎる時
3. 負荷の慣性が大きい時

● 緩始動

 横行又は走行の始動に急激な力が働くと、衝撃が大きくなって荷揺れが起きる。このため、横行や走行には電気的に電動機自体の始動回転力を制御する方法や機械的な動力伝達機構によって始動の衝撃を緩和する方法を用いてクレーンを緩やかに始動させている。

かご形三相誘導電動機の速度制御

 かご形三相誘導電動機の電気的な始動方法には、電動機の回路に抵抗器、サイリスタ、リアクトル等を挿入して始動電流を抑える方法等が用いられている。機械的な緩始動には、流体継手や粉体継手等の動力伝達機構を用いて始動時の衝撃を吸収する方法が使用されている。その他に、インバーター制御やポールチェンジが速度制御に用いられている。

● 一次抵抗による始動

 電動機の一次側に抵抗器を入れ、始動電流を抑えて回転を下げる方法は、トルク特性によって速度が大きく変化しないため、ある程度しか速度を制御することができない。また、大きな抵抗器が必要で熱損失が大きいため、一次抵抗制御は7.5kW以下の誘導電動機に用いられている。なお、三相のうちの一相だけ抵抗又はリアクトルを装入して始動する方式をクザ始動という。この方式は、一相の始動トルクは著しく減少するが、他の相の電流は全電圧時と変わらないため、15kW以下の誘導電動機の緩始動に用いられている。

● サイリスタ一による始動

 サイリスタによる制御は、アノードからカソードに電流を流す時間をゲートでコントロールすることができる半導体を使用したもので、電源各相にサイリスタを逆並列につなぎ、電動機の回転数を検知して指定された速度にすることで無段階の安定した速度を得ることができる。

      

● リアクトル始動

 電動機と電源の間にリアクトル(コイル)を接続し、このリアクトルのインピーダンス(抵抗)によって始動電流を抑え、始動後に接続を切り替える方式。比較的広範囲の始動特性を得ることができるが、設備費用は高くなる。

         

● スターデルタ始動

 始動時に一次巻線をスター結線で接続し、始動後にデルタ結線に切替える始動法で、大きな始動トルクを求めない低圧の電動機に広く用いられている。一次巻線をスター結線にした時に加える始動電流は、デルタ結線の1/3になるため、始動電流を抑えて回転力を落とすことができる。巻線各相のすべての端子を外部に出し、スターデルタ始動器によってスター結線やデルタ結線に切替えられるようにしている。

      

● 流体継手(フルードカップリング)

 流体継手は、油を媒介として動力を伝達するもので、スムーズな加速を得ることができる。電動機がピークトルクに達する頃、流体継手の被動機側が回転を始めるため、始動時に電動機を低トルクで使用しなくてすむ。また、運転中に衝撃や振動があっても流体継手が吸収するため、機械の破損を防ぐことができる。

       

● 粉体継手(パウダーカップリング)

 粉体継手は、パウダー(鉄の粒子)を媒介にして動力を伝達するもので、衝撃が少なく緩始動を容易に行うことができる。

        

● インバーター制御

 誘導電動機の回転数は、電動機に供給される電源周波数に比例する。インバーター制御は、電動機に供給する電源周波数を変えて速度を制御するもので、可変速制御と呼ばれている。コンバーター(順変換装置)で交流を一旦直流に変換し、インバーター(逆変換装置)によって希望する周波数の疑似三相交流に再び変換して速度を制御している。インバーターの速度制御の範囲は広く、5〜100%の安定した速度を得ることができる。この方式は起動トルクの制限やインチング運転等の制御性能に優れ電動機容量の大きいクレーンにも使用することができる。これまでは直流から交流への変換は容易ではなかったが、インバーターの登場によって直流への変換が簡単になり、電源周波数を自由に変換することが可能となった。起動トルクの制限やインチング運転の制御性能に優れたインバーター制御は、容量の大きい誘導電動機に使用することができ、既設の誘導電動機に簡単に後付けすることもできる。近年は、半導体技術の技術の進歩と量産化によってインバーター制御器が安価なため、かご形三相誘導電動機の制御方式の主流になっている。

      

● 極数変換(ポールチェンジ)と二電動機式

 誘導電動機は、極数を変えることで回転数を変えることができる。電動機の極数を変換する方法として図のように1つの巻線の接続を切替えて異なる極数を得る方法や、電動機に極数の異なる2 巻線又は3 巻線を設け、この接続を切替えて2速度又は3速度を得る方法が用いられている。この方式を用いた電動機を極数変換電動機という。極数変換電動機は、極数が多くなるほど切換機構が複雑になるため、電動機が大型化して価格も高くなる。このため、通常は速度比2:1の2巻線のものが多く使用されている。2速度の比が10:1のように大きい場合は、極数変換電動機による方法では不経済なため、このような場合には二電動機式が用いられている。二電動機式は、2台の電動機を機械的に切替えて低速を得る方法で、特に繊細な制御や位置決めが必要なクレーンに使用されている。極数変換や二電動機式は、巻線形三相誘導電動機にも用いられることがある。

          
           高速(4極接続)          低速(8極接続)

巻線形三相誘導電動機の速度制御

 全電圧始動は、短い時間であっても定格電流の5〜7倍の大きな電流が流れる。この電流を減らすため各種の緩始動を行うと、電流と共にトルクが減少し、定格トルクよりも小さい始動トルクになる。負荷が大きい時や始動頻度が激しい時は、電動機内部の発熱が大きくなり、電動機の焼損や寿命を縮める恐れがある。巻線形三相誘導電動機は、このような場合に用いられている。巻線形三相誘導電動機には、かご形と同じ極数変換や二電動機式の制御方式も用いられているが、巻線形だけに用いられる制御方式には次のようなものがある。

● 二次抵抗制御

 回転子側の巻線に外部抵抗(二次抵抗)を接続し、この抵抗の値を変化させて速度を制御するもので、横行、走行、旋回に広く用いられている。二次抵抗の加減によって回転子に流れる電流の大きさを変える二次抵抗制御は、ある程度の速度制御は行えるが、つり荷を巻下げる時のように電動機が負荷によって回される場合は、荷重によって速度が大きく変化するため、安定した速度を得ることができない。このため、巻下げ等の速度制御には二次抵抗制御に様々な速度制御装置を組み合せて速度を制御している。なお、速度制御装置は、一般にブレーキと呼ばれている。しかし、速度制御装置は物体の運動を停止させたり保持したりする機能はないため、これとは別に制動用ブレーキが設けられている。

        

● 電動油圧押上機ブレーキ制御

 二次抵抗制御を巻上げや起伏に使用する場合は、負トルクによって安定した低速を得ることができない。このため、安定した低速を得るために二次抵抗制御に電動油圧押上機ブレーキを併用した電動油圧押上機ブレーキ制御が用いられている。電動油圧押上機ブレーキ制御は、機械的な電動油圧押上機ブレーキの制動力によって低速を得る方法で、低速の限度は全速の30%程度。電動油圧押上機ブレーキ制御は、磨耗するブレーキシューを用いているため、使用頻度の高いものや大型の電動機には不向きで90kW程度以下の小容量の電動機の速度制御に用いられている。
 電動油圧押上機ブレーキ制御は、巻線形三相誘導電動機の二次側にマッチングトランスを設け電動機の軸にブレーキドラムと電動油圧押上機を取付けている。マッチングトランスによって電動機の回転数に応じた電力を電動油圧押上機に供給し、電動機の回転が速くなるほどブレーキの摩擦力を大きく、電動機の回転が遅くなるほど小さくなるように押上力(ブレーキシューとブレーキドラムの摩擦力)を変化させて電動機を制御している。マッチングトランスは、一次側のコイルと二次側のコイルの間の相互誘導を利用して電力を伝えるもので、2つのコイルの巻線比によって電圧やインピーダンス(回路に交流電流を流す際に生じる抵抗)を変えている。

           

● 渦電流ブレーキ制御

 磁極面に置かれた金属製円板が回転すると、回転を止めようとする方向に電流が渦状に流れる。渦電流ブレーキ制御は、渦電流による制動力を利用したもので、電動機に連結して使用されている。渦電流ブレーキ制御は、軽負荷では電動機に回転を与えて強制的に荷を巻下げ、重負荷では自重で降下する荷を渦電流ブレーキで制御して一定の低速を得ることができる。この制御法は、電動押上機ブレーキのような消耗する部分がなく、制御能力に優れている。ただし価格は若干高くなる。構造上、装置が大きくなる傾向があるため、大容量電動機には不向きである。

           

● ダイナミックブレーキ制御

 巻線形三相誘導電動機の一次側の交流電源を切り離し、その一次側に直流発電機で発電した直流を流すと、巻線形三相誘導電動機の回転磁界が固定磁界に変わる。この固定磁界の中で回転子が回転すると、回転子巻線に回転方向とは逆方向の誘導起電力が生じる。この力を制動力に利用したものをダイナミックブレーキ制御という。
 ダイナミックブレーキ制御は、全速の10%〜70%程度の低速を得ることができるが、制動力が大きいために負荷が軽い場合には低速で巻下げを行うことができない。このため、電動機容量110kW以上の大型の電動機や質量の大きな作業を行うレードルクレーンに用いられている。

            

● サイリスタ一次電圧制御

 サイリスタ一次電圧制御は、電動機の一次側に加わる電圧が変わると回転数が変わる性質を利用し、サイリスタ装置によって一次側に加える電圧を制御している。この制御法は、電動機の回転数を検知して指定された速度と比較しながら制御するため、低速では全速の5%程度の安定した速度を得ることができる。ただし、設備費用は高額になる。

           

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