制御器と付属機器

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 制御器は、電動機に正転、逆転、起動、停止、速度制御等の指令を与えるもので、直接制御を行う直接制御器、間接制御を行う間接制御器、両方の機能を有する複合制御器等があります。



クレーンの制御方式

 三相誘導電動機は、3本の線の内の2本の線を入れ替えて逆転運転させることができる。直流電動機は、プラスとマイナスの線を入れ替えて逆転運転させることができる。クレーンの電動機は、正転や逆転だけではなく、起動や速度制御を行う必要がある。また、作業によっては高速、低速だけではなく、その中間の速度を要求される場合がある。 このように任意の速度を得る方法を速度制御といい、
クレーンの使用目的に応じた方法が採用されている。

      

● 直接制御器(ダイレクトコントロール)

 直接制御器は、ハンドルで回転させる円弧状のセグメントと、それに接する固定フィンガからなるもので、固定フィンガ(接点)に接触しているドラム形のセグメント(連続した接点)をハンドルで回してスイッチを作動させ、電動機の主回路(一次側及び二次側)を制御器の内部接点で直接開閉する方式である。電動機の容量が大きい場合は、ハンドル操作が重くなって回路の開閉が困難になるため、45KWを越える電動機には使用されない。

        

● 間接制御器(マスターコントロール)

 間接制御器は、ハンドルで回転させるカムと、その周辺に固定されたスイッチからなるもので、操作回路用カムスイッチを操作し、電動機の主回路を開閉する電磁接触器(マグネットコンタクター)を開閉する方式である。この方式には、電磁接触器に加速や減速を自動的に行うタイマーを組み込み、急激なハンドル操作を行っても急作動を起こさず、電動機に対する悪影響を少なくしたものがある。間接制御器は、電動機の主回路を直接開閉しないため、ハンドル操作が軽く、直接制御に比べて小形軽量であるが、設備費は直接制御よりも高額である。なお間接制御器には、カム形間接制御器の他に、ハンドル位置を連続的に検出することができるエンコーダー型間接制御器がある。

       

● 複合制御器 (半間接御器)

 複合制御器は、巻線形三相誘導電動機の一次側を間接制御、二次側を直接制御する場合に用いられるもので、半間接制御器とも呼ばれている。

操作ハンドルによる制御器の分類

 制御器を操作ハンドルによって分類すると、水平方向にハンドルを操作するクランクハンドル式制御器、前後にハンドルを操作するレバーハンドル式制御器、2つの制御器を同時又は単独で操作するユニバーサル式制御器がある。操作ハンドルの刻みをノッチといい、制御器には0ノッチ(停止)から5ノッチの段階が設けられている。
1.クランクハンドル式は、水平方向にハンドルを操作
2.レバーハンドル式は、前後にハンドルを操作
3.ユニバーサル式は、前後左右にハンドルを操作

         
      クランクハンドル式制御器

 制御器には、広い意味で間接制御器の一種と呼べる押しボタン制御器(押しボタンスイッチ)や無線操作用制御器があり、床上で操作するクレーン等に使用されている。
 押しボタン制御器は、作動方向を上下及び東西南北の具体的な表示で示し、つり荷との接触を避けるため、適当な長さのケーブルが使用されている。押しボタン制御器には、上下左右や正転逆転の相反するボタンを同時に押せないインターロック構造のものや、二段押込式によって1段目を低速、2段目を高速にしたものがある。押しボタンスイッチに使用する回路の操作電圧には、クレーンの電源電圧をそのまま使用したものが多いが、中には安全のために変圧器によって電圧を200V又は100V、あるいはそれ以下の電圧で使用するものがある。無線操作用の制御器(送信機)には、ハンドル操作式や押しボタン操作式があり、誤動作を防ぐために1 つの操作を複数の信号によって行っているものがある。また、携帯しやすいように軽量化して切換開閉器で機上運転に切替えられるようにしたものがある。

              
      押しボタン制御器     無線操作用制御器

特殊な制御法

 クレーンの特殊な制御法には、慣性を利用する方法、電動機の回転を逆回転させて停止させる方法、2つの電動機の回転を同期させる制御法等がある。

● コースチングノッチ

 クレーンの操作ハンドルの刻みをノッチといい、電動機には通電せずにブレーキのみ通電させてブレーキを緩める慣行ノッチをコースチングという。ハンドルを慣性ノッチである1ノッチにすると電動機の電源は切れるが、ブレーキには通電しているためブレーキは掛からない。これにより、クレーンは慣性によって横行又は走行しながら減速する。その後、ハンドルを0ノッチにするとブレーキが掛かるため、クレーンを緩やかに停止させることができる。この慣性ノッチは、電磁ブレーキや電動押上機ブレーキのある横行や走行の制御器等に設けられる。

● 逆相制動 (ブラッキング)

 クレーンの運転を急停止させる場合、故意にノッチを逆に入れて減速させる方法を逆相制動という。この方法は、クレーン各部に電気的及び機械的な負担を掛ける恐れがあるため、やむをえない場合のみに使用されている。逆相制動は、高ノッチで行っても制動力は大きくならないため、1ノッチ ( コースノッチングがある場合は2ノッチ ) で行われる。インバーター制御の場合は、一旦減速してから逆方向に回転するため、逆ノッチによる逆相制動は行うことができない。

● パワーセルシン

 巻線形三相誘導電動機i2台の二次側を互いに接続し、一次側を共通の電源に並列接続させると、 2つの電動機は同じ回転力を得る。速度の制御は、共通の抵抗を電動機の二次側に入れて行うもので、クレーンの両脚を同じ回転で駆動させる方法の1つとして用いられている。

      

クレーンの機器の接続

 次の図は、天井クレーンの電気機器の接続を示したもので、このような回路図を単線結線図又は単線接続図という。天井クレーンは、トロリ線給電用開閉器から走行トロリ線へ送られた電気が共用保護盤の主配線用遮断器及び主電磁接触器を通って各電動機回路に分けられ、過負荷保護を行う過負荷継電器(サーマルリレー)を経て、巻上げ、横行、走行の各電動機に分配されている。
 巻上げにおいては、電流が巻上制御盤から可逆接触器を通り、横行トロリ線を経由して電動機の一次側に通電される。電動機の二次側は、横行トロリ線を経由して抵抗器に接続され、抵抗器からは巻上制御器に接続されている。なお、図の巻上用原動機は、間接制御、横行用原動機は直接制御、走行用電動機は半間接制御で制御されている。

      

電動機の付属機器

電動機の付属機器には、次のようなものがある。

● 共用保護盤

 共用保護盤は、外部より給電された電力を各制御盤に配電することを主目的とし、各電動機や回路を保護する装置をひとまとめにしたもので、鋼板製の箱の中に回路を保護する主配線用遮断器、電動機を保護する過電流継電器、主電磁接触器、電源表示灯等が取付けられている。
 クレーンを運転する時は、主配線用遮断器のスイッチを入れ、押しボタンスイッチの「入」を押して主電磁接触器を閉じて通電する。これにより、制御器を作動させればクレーンをいつでも稼動させることができる。運転を終了する時は、押しボタンスイッチの「切」によって主電磁接触器を開路した後、主配線用遮断器を手で開く。なお、回路に流れる電流を遮断することを回路を開く(開路)といい、回路に電流を流すことを回路を閉じる(閉路)という。

● 制御盤

 制御盤は、間接制御又は半間接制御の場合に設けられている。鋼板製の箱の中に電磁接触器、電流計、加速継電器(リレー)等を保守点検しやすい箇所に配置している。大容量のクレーンの制御盤は、用途別まとめられ、巻上盤、走行盤、旋回盤等と呼ばれている。ただし
電動機の種類、容量、制御方式に応じた制御盤が製作されているため、機器の配列や盤の呼
び方には様々なものがある。
 近年の制御盤には、シーケンサーや速度制御用のインバーター装置やサイリスタ装置等を
搭載したものがある。小容量のクレーンの場合は、これらを共用保護盤に収納したものが多
い。シーケンサーとは、複雑な制御プログラムを処理して速度をコントロールするもので、
プログラムの内容を容易に変更できるため、近年は多く使用されている。

      

● 配線用遮断器

 クレーンの電源引込口に設けられた配線用遮断器は、クレーン本体の配線等を保護することを目的としたもので、クレーンに給電するための回路を開閉するために用いられている。配線用遮断器は、開閉機構、引出装置等を一体として絶縁物の容器内に組み立てたもので、通常の使用状態の電路を手動又は絶縁物容器の外部の電気装置等で開閉することができる。また、過負荷や短絡等の異常が発生した時には自動的に回路を遮断する。
 以前はナイフスイッチとヒューズを組み合せたものが使用されていたが、この方式はヒューズの取替えに手間が掛かり、切れたヒューズの金属膜によって絶縁が悪くなるため、今ではヒューズを取替えの必要がなく、繰り返し使用できる配線用遮断器が多く使用されている。

      

● 電磁接触器(マグネットコンタクター)

 電磁接触器は、接点を開閉する操作電磁石部と電流遮断時に発生するアークを消す消弧部で構成されたもので、電動機の主回路を頻繁に開閉するために使用されている。電磁接触器には電磁石の吸引力で回路を閉じ、重力又はバネの力で回路を開く機構のものが多い。電磁接触器の接点(接触子)には、接触抵抗が低い耐弧性(アークに対する強さ)に優れた金属(銀、銅及びこれらの合金)が使用されている。銀合金による接触子の表面を紙やすりで磨くと、紙やすりの絶縁物が接点に食い込んで接触抵抗を増加させる。このため、電磁接触器が著しく磨耗した場合や、黒くなったり荒れていたりしている場合には取替える必要がある。

        

 操作電磁石の操作方式には、直流励磁によるものと交流励磁によるものがある。 直流励磁の電磁石には塊状鉄心、交流励磁の電磁石には薄いけい素鋼板を重ね合わせたもの( 成層鉄心 )が一般的に用いられている。 天井クレーンの電磁接触器は、交流励磁がほとんどだが、高速又は大容量のクレーン、あるいは高い信頼性を要求される製鉄クレーンは、 セレン整流器やシリコン整流器によって交流を直流に変換して用いる直流励磁による方式が使用されている。電磁接触器を操作電磁石によって分類すると、クラッパ形電磁石とプランジャ形電磁石に大別することができる。

         
       クラッパ形電磁石          プランジャ形電磁石   

● 電磁開閉器(マグネットスイッチ)

 電磁開閉器は、主回路の開閉を行う電磁接触器と電動機の過負荷の保護を行う過負荷継電器(サーマルリレー)を組み合わせ、電動機の過負荷や焼損を防ぐことができる。

      

● 抵抗器

 抵抗器は、特殊鉄板を打抜いたもの又は鋳鉄抵抗体(グリッド)を必要な数だけ絶縁ロッドで締め付けて格子状に組み立てたもので、主に巻線形三相誘導電動機や直流電動機の速度制御に用いられている。巻線形三相誘導電動機は、この抵抗器を二次側に使用するため、二次抵抗器と呼ばれている。抵抗器は、運転中に温度が350℃位に上昇することがあるため、可燃物を近くに置かないように注意しなければならない。

       
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