ブレーキ

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 ブレーキは、運動する物体を停止や減速を行う装置です。これらの動作を制動といい、ブレーキの装置を制動装置といいます。ブレーキは、精密な停止制御が必要なクレーンや移動式クレーン等に使用されています。


ドラムブレーキ(ホイールブレーキ)

 ドラムブレーキは、ブレーキライニング(ブレーキシュー)をバネの力によってブレーキドラムの外側に押し付けて制動するもので、電磁石を用いてブレーキを開放する方式と、電動油圧押上機の押上力によってブレーキを開放する方式がある。 これらのブレーキは、ジブ又はブームの起伏、横行、走行、旋回、引込み等に広く用いられている。

 ● ドラム形電磁ブレーキ (マグネットブレーキ)

 ドラム形電磁ブレーキは、 電磁石、リンク機構、バネで構成され、電動機に電流が流れると電磁石に通電し、電磁石がバネの力に逆らって制動を開放する。 電動機の回転を止めると、電磁石への通電が止まり、バネによって再びブレーキシューがドラムを締め付ける。
 ドラム形電磁ブレーキには、励磁(電流を流して磁石にすること。)を交流で行う交流電磁ブレーキと、直流で行う直流電磁ブレーキがある。

       

 ● 電動油圧押上機ブレーキ

 電動油圧押上機ブレーキは、電磁石の代わりに電動油圧押上機を用いたもので、電動ポンプからの油圧の押上力によってブレーキの制動を開放する。電磁ブレーキに比べて制動に要する時間が長い反面、音は静かで制動時の衝撃が少ないため、横行及び走行の停止に広く使用される。電動油圧押上機ブレーキを巻上げやジブ又はブームの起伏用に使用する場合は、巻線型誘導電動機と組み合せて速度制御用に使用される。

     

バンドブレーキ

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 バンドブレーキは、摩擦に強い軟鋼製の帯(写真のようなバンドをいう。)の内面にライニングをリベットで取付けてブレーキドラムに巻き付け、この帯を締め付けて制動するもので、足踏式バンドブレーキや電磁バンドブレーキがある。帯状のバンドは均等に緩みにくいため、等しく緩むようにバンドの外周に隙間調整ボルトが設けられている。

 ● 足踏式バンドブレーキ

 足踏式バンドブレーキは、足の力で締め付けて制動するもので、運転室から操作する天井クレーンの走行用ブレーキに広く使用されている。足踏式及び手動式は、ブレーキ操作に必要な力量とストロークの値が次のように定められている。

ブレーキ操作に必要な力とストローク
操作方式 操作力(力量) ストローク
足踏式 300N以下 30cm以下
手動式 200N以下 60cm以下

 ● 電磁バンドブレーキ

 電磁バンドブレーキは、 おもりの力で締付けられているブレーキバンドを電磁石によって開放するもので、バケット付きクレーンの単電動機式巻上装置等に使用されている。

      

ディスクブレーキ

 ディスクブレーキは、ディスク(円板)の両側をブレーキパッド((摩擦の大きい材質)で挟みつけて制動するもので、比較的コンパクトな装置にでき、冷却効果に優れている。

 ● 足踏油圧式ディスクブレーキ

 足踏油圧式ディスクブレーキは、電動機の軸端にディスクを取付け、足踏油圧シリンダを操作して生じる油圧でブレーキシューをディスクに押し付けて制動する。運転室から操作する天井クレーンの走行用、ジブクレーンの旋回用として使用されている。

      

 ● 電磁ディスクブレーキ

 電磁ディスクブレーキは、スプリング力によってパッドをブレーキディスクに押し付けて電動機の回転を制動している。電動機に通電すると、電磁コイルに電流が流れ、電磁石がスプリングの力に逆らってブレーキを開放する。電動機を停止させると、再びスプリング力によってパッドがディスクを押し付けて制動する。電磁ディスクブレーキには、電動機の軸端に取付けたブレーキ付電動機や、電動機と一体になったものがあり、ホイストの巻上装置等に使用されている。

          

 

● 電動油圧式ディスクブレーキ

 電動油圧式ディスクブレーキは、電動機の軸端にディスクを装備し、スプリング力でパッドをブレーキディスクに押し付けて制動するもので、ブレーキの開放は電動油圧によって行っている。小型で安定した制動トルクが得られるため、クレーンの巻上げ、走行、旋回等に使用されている。

             

ホイスト式クレーンのブレーキ

 ホイスト式クレーンに用いられるブレーキは、小型化を目的としており、巻上げ、横行、走行用の電動機の軸に直接電磁ブレーキを組み込んだものと、ステータに通電すると、ステータコイルの強力な電磁力によりブレーキカバーに押しけられていたブレーキドラムが解放されて電動機が回転する方式のコーンブレーキがあります。

 ● ヒンジ式電磁ブレーキ

 ヒンジ式電磁ブレーキは、電動機軸に直結したモータピニオンの先端に軸と共に回転する複数のブレーキホイールを取付け、その間にブレーキ板が組み込まれている。ホイストのスイッチを入れると、スプリング力によって押されていたブレーキレバーが戻ってブレーキ板が離れ、電動機軸がブレーキホイールと共に回転します。

      

 ● 電磁ブレーキ  

 電磁ブレーキには、モータと独立したブレーキ回路を用いた電圧式や三相誘導電動機の一相にブレーキコイルを直列させた電流式の二通りの回路方式があり、また機械的構造は同じですが、ブレーキコイルへの通電電流によって交流式と直流式があります。ブレーキコイルに通電すると、強力な電磁力によりブレーキバネによってブレーキディスクに押し付けられていたアーマチュアが解放され、電動機が回転します

      

メカニカルブレーキ(機械ブレーキ)

 メカニカルブレーキは、巻上装置の巻下げ時の荷重によるつり荷の降下速度の加速を防止するために用いられていたが、構造が複雑で保守が難しいため、近年はほとんど使用されない。メカニカルブレーキには、ウェストン式やべッカー式があるが、これらのブレーキは停止や保持に用いる制動用ブレーキではないため、このブレーキ単独での使用は認められていない。

 ● ウェストン式メカニカルブレーキ

 ねじを切っている軸に、回転によって自動的に働くディスクブレーキが取付けられている。荷重側のドラムの降下速度が電動機の回転よりも速くなると、ねじを切っている軸の回転により、自動的に摩擦板が締め付けられてブレーキが掛かり、降下速度の加速を防止する。

      

 ● べッカー式メカニカルブレーキ

 ウォームの付いた軸にコーンクラッチを取付け、逆転防止用のラチェット(歯車と爪によって回転方向を一方に制限する機構) を設けたもので、巻上げにおいては電動機の動力がウォームの軸を回転させコーンクラッチがつながって回転する。巻上げを停止させると、荷重の力によって逆転しようとする軸にラチェットが働いて回転を停止させる。 巻下げにおいては、電動機の逆回転によってウォームを回し、つり荷をじわじわと下ろすことができる。

      

渦電流ブレーキ(VSブレーキ)

 渦電流ブレーキには、つり荷の荷重が変わっても一定の速度を得ることがでる自動制御と、荷重によって巻下速度が変わる非自動制御がある。渦電流ブレーキは、磨耗する機械的部分がない制御方式で、巻上げ、起伏、引込み、横行、走行等に使用されているが、装置の構造が大きくなるため大容量電動機には向かない。

          
         VSモータ

ブレーキの点検

 ブレーキは、点検するブレーキの取扱説明書をよく読み、次の点について十分に留意して作業しなければならない。
  1.電磁ブレーキの電磁石のストロークが大きい場合、ブレーキを開放する作動が遅くなる
   症状が現れるので、規定値に調整しなければならない。また、電磁石に吸引された時の
   鉄心の面が正常に密着しないと、過電流が流れて焼損を起こす恐れがあるため、密着の
   状態を点検して調整する必要がある。交流式のものは、これ以外に唸りを発生させ、ブ
   レーキ各部に緩みを生じさせるため、直ちに修理しなければならない。
  2.ブレーキライニングに水や油が付着すると、制動力が著しく低下するため、ライニング
   は清潔で乾燥した状態を保たなければならない。
  3.ライニングが磨耗していると、ブレーキの調整ができず、ブレーキドラムを傷める恐れ
   があるため、磨耗の度合いが一定以上に進んでいる場合には直ちにブレーキライニング
   を交換しなければならない。
  4.ブレーキは、円滑に作動するように各ピン周りに給油し、ピンの摺動部の錆付きや焼付
   きがある場合には分解して整備しなければならない。
  5.足踏式ディスクブレーキや電動油圧押上機のブレーキは、配管その他に油漏れや空気の
   混入があると制動力が生じなくなる恐れがあるため、油漏れ、油量、油の汚れ等に注意
   する必要がある。
  6.バンドブレーキの帯は、ブレーキドラムに均等に当るように調整ボルトで適正な隙間に
   調整しなければならない。
  7.ブレーキの制動力を高め過ぎると制動によって大きな力が作用し、電動機又はブレーキ
   の損傷、つり荷の落下等の恐れがある。このため、制動トルクはメーカーが定める規定
   値に設定しなければならない。
  8.ブレーキの使用条件又は負荷が過酷な場合やブレーキの調整が適正でない場合、ブレー
   キドラムとブレーキライニングの温度が異常に高くなり、ライニングの焼付き、変形、
   変質、ブレーキドラムの亀裂等を発生させるため、定期的に点検を行う必要がある。

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