感電は、様々な要因によって人体に電流が流れて傷害を受けることをいうもので、電撃とも呼ばれます。電流は、身体が水に濡れている等の電気抵抗が低い場合に流れやすい。
下図は、国際電気標準会議が公開した人体反応曲線図で、交流電流が人体を通過した時の反応を示している。50mAの電流が人体に流れた場合、通電時間が3秒以内であれば、心臓から血液を送り出せなくなる心室細動の恐れはない。ただし、50mAを超えると心室細動を起こして死に至ることを示している。50mAなら1秒まで、100mAなら0.5秒以内に電流を遮断すれば、心室細動や死亡する恐れはない。このため、50mA秒を安全限界に定めている。
電流/時間領域と人体の反応 | |
AC1 | 無反応 |
AC2 | 有害な生理的影響はない。 |
AC3 | 人体への障害は予期されないが、電流が2秒以上継続すると痙攣性の筋収縮や呼吸困難、あるいは一時的な心拍停止や心房細動を含んだ回復可能な心臓障害が生じる。 |
AC4 | AC3の反応に心停止、呼吸停止、重度の火傷が加わる。 |
AC4.1 −−−−心室細動の確率およそ5%以下 AC4.2 −−−−心室細動の確率およそ50%以下 AC4.3 −−−−心室細動の確率およそ50%以上 |
感電とは、感覚器官を持った人間等の生物に電流が流れて苦痛その他の影響を与えることで死亡率が非常に高いのが特徴である。感電による生理学的効果には、不快感、痛み、筋肉の痙攣、心室細動、熱傷等がある。人体に流れる電流の経路、電源の種類、電流の大きさ、通電時間、健康状態によって被害の程度は異なるが、最も人体に影響を与えるのは電流の大きさと通電時間である。ただし、僅かの電流が心臓等の重要な部分を直撃すると死亡することがある。
低圧による死亡原因には、心臓麻痺や呼吸停止が多い。高圧の場合は、この他に接触によるアーク熱やジュール熱による火傷が加わる。高熱物に触れての火傷は皮膚の浅い部分で収まる場合が多いが、感電による火傷は身体の奥深くまでおよぶため非常に危険である。直流と交流とでは、感電の感触が異なる。直流は筋肉がギュッと硬直するのに対し、交流はザワザワと心臓の筋肉が震えるように痙攣する。交流による感電の危険度は、直流に比べると4〜6倍程度高く、50mAの交流電流に感電した場合は死亡する恐れがある。50mAの直流電流に感電した場合は、人体に苦痛を与えるが、感電個所から離れられなくなる程ではない。
● 感電災害の程度を決定付ける要因
1. 人体を通過する電流の大きさ
2. 通電時間
3. 通電経路
4. 電源の種類(交流・直流)
5. 健康状態
● 交流電流が人体に流れた時の反応
0.5mA(通常、無反応)
1mA(電撃を感じる)
5mA(相当な苦痛がある)
10〜20mA(筋肉が収縮し、支配力を失う)
50mA(相当に危険で死に至ることがある)
人体の皮膚が乾燥している時の抵抗値は約4000Ω、皮膚が湿っている時は約2000Ω程度で、抵抗値が小さいほど感電した時の被害の程度は大きくなる。100Vの電圧に感電すると、皮膚が乾燥している場合は25mA(100V÷4000Ω)の電流が人体に流れる。皮膚が湿っている場合は50mA(100V÷2000Ω)の電流が流れる。10〜20mA以上の電流が人体に流れると、筋肉が痙攣して自由が利かなくなり、感電個所から離れられなくなる。これにより、通電時間が長くなって死に至ることがある。 筋肉が痙攣して自分の意志で電路から離れられなくなる電流を不随意電流といい、運動の自由を失わないまでの最大の電流を可隋電流又は離脱電流という。大多数の人が離脱できる可隋電流は、男性では9mmA、女性では6mAといわれている。
単相交流100Vの電線に人の手が触れた時の人体に流れる電流の求め方。ただし、手と電線との接触抵抗を200Ω、人体の抵抗を300Ω、足と大地との接触抵抗を1500Ωとする。手と電線との接触抵抗、人体の抵抗、足と大地との接触抵抗は、抵抗を直列接続した電気回路を構成している。したがって、これらの合成抵抗は
200+300+1500=2000Ω
これにより、人体に流れる電流の大きさを求める。
発電所から変電所や開閉所等に電力を送ることを送電、変電所や開閉所から需要場所(家庭、工場等)に電力を送ることを配電という。電力の損失をでるだけ少なくするため、変電所には22000〜500000V(特別高圧)で送電し、一般需要家へは6600V(高圧)、産業用には200〜400V又は6600Vで供給している。一般家庭は、更に電柱上の変圧器で電圧を100Vに落として供給している。送電の方法には、鉄塔や電柱等による架空送電と、地中送電線路による地中送電がある。特別高圧架空線の建設が禁止されている一部の市街地以外は、ほとんど架空線路で、地中線路が占める割合は少ない。
電 圧 | 交 流 | 直 流 |
低 圧 | 600V以下 | 750V以下 |
高 圧 | 600Vを超え、7000V以下 | 750Vを超え、7000V以下 |
特別高圧 | 7000Vを超えるもの |
移動式クレーンの設置場所は、電線のすぐ近くということが多く、ジブや巻上用ワイヤロープ等が送電線や配電線に接触しての感電事故がしばしば発生している。高電圧の送電線は、クレーンのジブ等が接近しただけで本来の経路である電線を外れて放電し、ジブ等を経由して大地に流れる。これにより、玉掛作業者が感電したり、電線を切断して停電事故を発生させる。このため、送電線や配電線に接近しての移動式クレーンの作業は、通電電圧によって安全のための離隔距離(安全距離)が定められている。仮に6600Vの電線を短絡させると、大きな音と光を発し、熱を伴う爆発が起きる。接触した部分は、跡形も無く消え去り、周囲約1m範囲の電線や碍子等のほとんどは金属蒸気となって消失する。高電圧は、それほど大きなエネルギーを秘めている。
電路の電圧 | 離隔距離 | |
低 圧 | 100V〜200V | 2.0m |
高 圧 | 6600V | 2.0m |
特別高圧 | 22000V | 3.0m |
66000V | 4.0m | |
154000V | 5.0m | |
275000V | 7.0m | |
500000V | 11.0m | |
各電力会社は、労働基準局長通達で定める離隔距離よりも長めの距離を安全距離としている。 |
事業者は、労働安全衛生規則により、架空電線又は電気機械器具の充電電路に近接する場所で工作物の建設、解体、点検、修理、塗装等の作業、これらに附帯する作業又はくい打機、移動式クレーン等を使用する作業を行う場合は、充電電路に身体等が接触又は接近することで感電の危険が生じる恐れがある時は、対策を講じなければならない。移動式クレーンを設置して作業する時は、前もって送配電線の位置及びクレーン作業の範囲を調査し、電力会社と打ち合わせて安全対策を施し、作業時に確認事項を全作業員に周知徹底させ、これを順守させなければならない。
移動式クレーンの付近や作業範囲に送配電線がある場合は、事前に送配電線等の移設、絶縁防護管の装着、感電防止のためのロープ、囲い、ポール等で措置を施し、ジブが電線等に接触しないようにしなければならない。移動式クレーンの 運転士は、これらの対策が有効に機能することを確認し、状況に応じたジブ長さ、起伏角度、旋回範囲を定めて作業する。囲いの措置を講ずることが著しく困難な時は、監視人を配置して作業を監視させる。
作業中、誤って移動式クレーンのジブや巻上用ワイヤロープが電線に接触した時は、慌てずに接触直前の操作とは逆の操作を行ってジブを電線から引き離す。送配電線からジブを引き離すことが困難な場合は、電流が切れるまでワイヤロープ、フック、ステップ等、一切のものに触れず、周囲の人に通報して触らせないよう注意を促す。続いて、現場責任者や電力会社に連絡して電源を切る。その間、運転士は、移動式クレーンの運転席から離れないのが安全だが、やむを得ず運転室から離れる場合は一気に飛び降りる。電線接触後に移動式クレーンを使用する場合は、電装品、ジブ、ワイヤロープ等の通電による焼付きや損傷の有無を確認する。
万一、感電して動けなくなっている人が居る場合は冷静に素早く救助しなければならない。感電している人体には電気が通っているため、素手で触ると助けようとする人も感電する。救助者の感電を防ぐためには、乾いた木等の絶縁物を用いて間接的に感電している人を引っ張り感電個所から引き離す。感電によって気を失っている場合は、心臓マッサージ等の救急処置を施すことが重要である。