油圧装置は、油圧を利用して作動する装置で、油圧発生装置、油圧駆動装置、油圧制御装置等があります。現代社会においては、油圧装置は欠かせない存在となっています。
油圧装置は、「密封した容器中に静止している液体の一部に加えた圧力は、液体のすべての部分に、そのままの力で伝わる。」というパスカルの原理(Pascal Blate 1623〜1662)を応用している。図のビストンの面積が1cm2 と10cm2 のシリンダを組合わせた容器Aに10Nの力を加えると、ビストンBには100Nの力が伝わる。ピストンが伝える力の大きさは、ピストンの面積に比例し、面積比が1対10であれば10倍の力を得られる。更に力を加えた場合は、伝わる力も同じ比率で増大する。 圧力はPa又はN/mm2で表される。
流量と流速には、「油が管路を流れる時の任意の断面を通る流量は、どの断面も一定。」という連続の法則がある。断面積A1、!断面積A2の流速をS1、S2すると、A1×S1=A2×S2の式が成立する。
油圧技術の発達により、近年の移動式クレーンの各装置には油圧の機構が多く用いられているが、これは油圧装置が移動式クレーンの原動機として如何に優れているかという証である。油圧装置には多くの長所があるが短所もあるため、装置の構造や取扱いについて十分に理解する必要がある。
1. 機械式や電気式に比べて小型で単純構造の装置にできる。
2. 力の大きさ、速度、方向を小さな力で容易に操作できる。
3. 機械式に比べて振動が少なく、作動がスムーズ。
4. 無段変速や遠隔操作ができる。
5. リリーフ弁によって装置の破壊を防ぐことができる。
6. 分岐回路を設けることで、配管や作動油の分流が自由にできる。
7. 油圧機器を自由に配置することができる。
1. 配管が面倒。
2. 作動油は、高圧になるほど油漏れが生じやすい。
3. ごみやさびに弱い。
4. 作動油は、可燃性。
5. 作動油は、温度によって機械効率が変化する。
移動式クレーンの基本的な油圧装置は、次の図に示す通りである。エンジンの動力によって油圧ポンプが作動すると、作動油タンクから吸い込まれた作動油が圧油となり、方向切換弁を経て油圧シリンダ又は油圧モータに導かれ、それぞれ往復又は回転運動に変えられる。駆動後の圧油は、低圧となって作動油タンクに戻る。装置には、リリーフ弁(安全弁)を取付け、油圧が設定以上の圧力を超えると、弁が開いて作動油タンクに作動油を逃がし、一定の油圧が得られるように油圧回路を保護している。また、ジブの起伏シリンダに取付けられているカウンタバランス弁は、ジブを倒す時のジブの降下速度が速くなり過ぎないように戻りの油量を調整している。
1. 方向切換弁の操作レバーを後に引くと油がシリンダ@側に流れてピストンが右に動く。
2. 操作レバーを前に押すと作動油がシリンダA側に流れてピストンが左に動く。
3. 押された圧油側は、切換弁を経て油タンクに戻る。
油圧装置は、次の装置等で構成されている。
油圧発生装置 | 油圧ポンプ | ねじポンプ |
歯車ポンプ | ||
ベーンポンプ | ||
プランジャポンプ | ||
油圧駆動装置 | 油圧シリンダ | 単動形 |
複動形 | ||
特殊形 | ||
油圧モータ | 歯車モータ | |
ベーンモータ | ||
プランジャモータ | ||
油圧制御装置 | 圧力制御弁 | リリーフ弁 |
減圧弁 | ||
シーケンス弁 | ||
カウンタバランス弁 | ||
アンロード弁 | ||
流量制御弁 | 絞り弁 | |
方向制御弁 | パイロットチェック弁 | |
逆止め弁 | ||
方向切換弁 | ||
付属機器 | 作動油タンク、圧力計 | |
配管類 | 管、継手、シール |
油圧発生装置には、油圧ポンプが用いられている。油圧ポンプとは、エンジン等の原動機の動力で駆動させ、油タンクの作動油を吸い込んで加圧した圧油を吐出す装置をいう。油圧ポンプを機構別に分類すると、ねじポンプ、歯車ポンプ、ベーンポンプ、プランジャポンプ等がある。歯車ポンプ又はプランジャポンプは、移動式クレーンのジブの起伏、伸縮、巻上げ等の動力源として使用されている。ねじポンプは、エンジンの補機として潤滑油ポンプや燃料ポンプに使用されている。
歯車ポンプは、ギヤケース内で2つの歯車が噛み合っている。その歯車の回転による吸引力によって油を吸込口から取込み、吐出口へ吐出すという単純な構造で、その種類には歯車の噛み合い形式が異なる内接式と外接式がある。移動式クレーンには、外接式歯車ポンプが用いられている。
● 歯車ポンプの長所
1. 小型軽量で故障が少ない。
2. 構造が簡単で丈夫である。
3. 保守が容易である。
● 歯車ポンプの短所
1. 高圧なものや大容量のものは製作できない。
2. 騒音や振動を発生することがある。
ベーンポンプは、ロータに10数個のすり割を設け、これに対してベーンが直角に取付けられている。駆動軸の回転によってベーンが駆動し、ロータが半回転するごとに吸込口側の油が吐出口へ運ばれる。ベーンポンプには、1回転当りの吐出量が一定の定容量形と、吐出量を変えられる可変容量形がある。可変容量形には、偏心量を調整する機構を組込み、1回転当たりの吐出量を変化させている。
プランジャポンプは、駆動軸の回転でシリンダ内のプランジャ(ピストン)を往復運動させて油の吸込み、吐出しを行う構造で、プランジャの配列の違いによりラジアル形とアキシャル形に分類されている。移動式クレーンには、アキシャル形斜板式のプランジャポンプが多く使用されている。
● プランジャポンプの長所
1. 大容量の脈動の少ない圧油が得られる。
2. ポンプ効率が良く、20〜30N/mm2の高圧が容易に得られる。
3. シリンダとプランジャのしゅう動部が長いため、油漏れが少ない。
4. 可変容量形のポンプは、吐出量を加減することができるため、絞り弁、流量調節弁を
使用して流量を加減する必要がない。
● プランジャポンプの短所
1. 構造が複雑で、部品が多い。
構造によるプランジャポンプの分類 | ||
ラジアル形 | ||
アキシャル形 | 斜板形 | 固定斜板式 |
回転斜板式 | ||
斜軸式(コネクチングロッド式) |
○ ラジアル形プランジャポンプ
ラジアル形は、駆動軸に対して放射線状に配したプランジャ(ピストン)が、シリンダブ
ロックに挿入されている。駆動軸の回転によるプランジャの往復運動に伴い、ポンプ作用が
行われる。
○ アキシャル形プランジャポンプ
アキシャル形は、プランジャがシリンダブロックの中心線と平行に往復運動を行う形式
のポンプで、斜板はカムの働きをする。プランジャと斜板(カムプレート)が、ある角度
をなしていて、駆動軸が回転すると、斜板がプランジャに近づいたり遠ざかったりする。
その結果、プランジャが往復運動を行ってポンプとして作動する。
● 固定斜板式
駆動軸と一体となったシリンダブロックが回転し、 プランジャが固定斜板によって往
復運動を行ってポンプ作用が行われる。
● 回転斜板式
駆動軸と一体となった斜板を回転させることで、プランジャがカムプレートに近づい
たり遠ざかったりする。この往復運動によって、ポンプ作用が行われる。
● 斜軸式(コネクチングロッド式)
駆動軸に対して傾斜したシリンダブロックが駆動軸と共に回転することでピストンが
シリンダ穴に対して往復運動し、ポンプ作用が行われる。
油圧駆動装置は、油圧ポンプから送り出された圧油を機械的な動力に変える装置で、直線運動を行う油圧シリンダと回転運動を行う油圧モータがある。
油圧シリンダは、油圧ポンプから送られてきた圧油の力で直線運動をシリンダに行わせる装置をいうもので、単動形、複動形、特殊形等がある。
1. 単動形
作動油の出入口がシリンダの一方にしかなく、圧油の力でシリンダを伸ばす。シリンダを
縮める時は、ジブの自重又はスプリングの力を利用している。
2. 複動形
シリンダの両側に作動油の出入口を設け、方向切換弁によって圧油の流れる方向を変え、
伸縮させている。移動式クレーンのアウトリガやジブの起伏用油圧シリンダには、一般に複
動形片ロッド式シリンダが使用されている。
3. 特殊形(テレスコピック形)
シリンダの内部に別のシリンダを有し、圧油によって順次シリンダが伸びる構造。
油圧モータの構造は、油圧ポンプと同じだが、その使用方法が異なっている。油圧ポンプは原動機の動力で駆動軸を回転させるが、油圧モータは圧油を油圧モータに押し込むことで駆動軸を回転させている。つまり、作動油の流体エネルギーをトルクに変えるものを油圧モータという。油圧モータには、歯車モータ、ベーンモータ、プランジャモータ(ピストンモータ)がある。移動式クレーンの巻上げ、旋回の油圧モータには、一般にプランジャモータが使用されている。プランジャモータは、プランジャの配列の違いにより、ラジアル形とアキシャル形がある。ラジアル形プランジャモータは、プランジャが回転軸に対して直角方向に配列されている。アキシャル形プランジャモータは、プランジャが回転軸と同一方向に配列されている。