移動式クレーンの取扱い

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 移動式クレーンを安全に使用するためには、作業の標準化ならびに維持管理を充実させる必要があります。また、運転士自身が正しい知識を有し、運転方法や整備の技量を向上させる努力を積み重ねることも大切です。


移動式クレーンを使用する際の留意事項

移動式クレーンの設置、作業、作業終了、走行等では、次の事項に留意しなければならない。

 ● 移動式クレーンの設置及び作業時の留意事項

1. 移動式クレーンを設置する時は、軟弱な地盤によってクレーンが転倒したり、地中の埋設物
 を破損させる恐れのないことを確認する。クレーンが送電線に近接している場合は、防護管
 等の感電防止の処置を施し、法肩がある場合は離れた位置に設置する。
2. 移動式クレーンは、作業領域を考慮して設置しなければならない。アウトリガは、原則とし
 て最大限に張り出す。アウトリガフロートの下には、広くて十分な強度と安定性のある敷板
 を敷き、機体を水平に設置する。負荷防止装置は、アウトリガの設定を実際の張出幅にセッ
 トする。
3. つり荷の質量、形状、数量等を確認し、つり荷の質量に適した掛数のフックブロックを使用
 する。フックブロックをクレーンの固定リングから外す時は、アウトリガを張り出してから
 行う。
4. ジブ長さを作業内容に応じた長さに設定し、定格総荷重等を確認する。その際、揚程が足ら
 ないからといって巻過防止装置の機能を停止させてはならない。つり荷を最大に巻下げた時
 は、ドラムに最低2 巻以上のワイヤロープが残るようにする。巻上用ワイヤロープの限度を 
 超えてフックを巻下げると、ワイヤロープがドラムに逆方向に巻き込まれて再びつり荷が巻
 上がったり、ドラムからワイヤロープが抜け出たりしてロープ及びロープ固定金具に損傷を
 与えるため、非常に危険である。
5. つり荷を巻上げる時は、フックブロックを荷の重心の真上に位置させ、地切り後に一端停止
 し、つり荷や玉掛けの状態を確認する。フック中心の鉛直線とつり荷の重心が一致していな
 い状態で荷を巻上げるとつり荷が揺れて器物を破損や玉掛作業者の負傷を招く恐れがある。
6. つり荷の横引きは、荷が大きく振れる恐れがある。また、ジブの折損や脱索によるワイヤロ
 ープの損傷を招きかねないため、周囲に人がいない場合でも横引きは行ってはならない。ジ
 ブの起こし操作による地切り、旋回操作による荷の引き込みも同様である。
7. つり荷を着床させる時は、低速で巻下げ、床から30cm程度の高さで一端停止する。その後
 合図者の合図に従ってつり荷を静かに下ろし、着床したところで一端停止し、つり荷のすわ
 り具合を確認してからフックを下す。
8. 移動式クレーンによって玉掛用ワイヤロープを引き抜くとロープが荷に引っ掛って荷崩れを
 起こす原因になるため、クレーンを用いて玉掛用ワイヤロープを引き抜きいてはならない。
9. つり荷は、動力降下で降下させる。自由降下(フリーフォール)での降下は、つり荷を落下
 させる恐れがある。

 ● 作業終了時及び走行時の留意事項

1. 作業を終了した時は、フックブロックは巻上げておく。
2. 箱型構造ジブの移動式クレーンを他の場所に移動させる時は、ジブ、アウトリガを走行姿勢
 に戻し、旋回装置をロックして移動させる。
3. クローラクレーンを他の場所に移動させる時は、フックブロックが振れないように上部に巻
 上げ、旋回装置をロックし、ジブを30°〜70°程度に保持し、起動軸側(走行モータ)を後方
 遊動軸側を前方にして走行する。その際、方向転換は緩やかに行い、ジブ等を障害物や電線
 等に接触させないように注意しながら走行する。
4. 移動式クレーンを走行させる時は走行前にP.T.O(動力取出装置)のスイッチをOFFにする。
 P.T.Oを入れたまま走行すると、装置を破損させる恐れがある。
5. ガード下等の地上高さが制限されている場所を通過する時は、制限高さに注意し、ジブ等を
 接触させないように徐行する。移動式クレーンは、ジブによって視界が良くないため、見通
 しの悪い所では十分に歩行者や他の車両等に注意する。
6. フットブレーキを使い過ぎるとブレーキディスク等が加熱し、ブレーキの効きが悪くなる。
 坂道を下る際はエンジンブレーキとエキゾーストブレーキ等を併用して安全な速度で下る。
 降坂時のエンジンの過回転に注意し、破損の警告を発するオーバーランの警報が鳴った時は
 直ちに減速し、エンジンの回転を下げげなければならない。
7. クローラクレーンをトレーラーに積み下ろしする時は、原則として水平堅土な場所を選び、
 立入禁止の処置を施し、作業指揮者を定めて作業を行う。クローラクレーンを自走で輸送用
 トレーラーに積み込む時は、荷台後部に装備されている専用の登坂用具を使用する。トレー
 ラーには、パーキングブレーキを掛け、タイヤを歯止めする。続いてトレーラーの荷台の中
 心線に積み込むクローラクレーンの中心を合せ、履帯中心線と登坂用具の中心線を一致させ
 る。クローラクレーンは、上部旋回体が旋回しないようにロックし、途中での方向転換は行
 わずに登坂用具を低速で一気に登る。登坂用具を登りつめて履帯前部を着地させる時は、静
 かに着地させる。輸送中は、機体が動かないように履帯前後に歯止めを行い、ワイヤロープ
 等で固定する。

     

移動式クレーンの風の影響

 風による移動式クレーンへの影響は、つり荷の面積が大きいほど、つりり荷の高さが高いほど、ジブの長さが長いほど大きくなる。移動式クレーンが受ける風のすべては、荷重となって転倒モーメントとして作用するため、安定度が減少する。したがって、風が吹いている時の作業では、定格荷重を少なくする配慮が必要である。

1 風 速
 気象通報の風速は、周囲100m程の間に障害物のない地面上10mにおいて、風速計で10分間観測した平均値を用い、毎秒?メートルの風(m/s)と表わす。風速には、瞬間風速と平均値である平均風速がある。瞬間風速は、平均風速の1.5〜1.7倍程速い。強風の判断基準には、平均風速が用いられるが、一般的な測定方法には瞬間風速計を用いる場合が多い。移動式クレーン作業に関わる風荷重等も瞬間風速で判断するのが実用的と考えられている。風速を車の速度のkm/時で考える場合は、風速を3.6倍にして計算するとよい。
2 風の吹き方
 風が物体に当たると、風による風圧が生じる。平均風圧は、風速の2乗に比例するため、風速が2倍になると風圧は4倍になる。
3 局地的突風
 局地的な突風は、気候の急変等により局地的に発生する強風で、山間の平地や谷間等が風道となって発生することがある。
4 ビル風
 ビル風も局地的突風の一種である。高層ビルの周囲で吹く風が南風又は北東の時には、ビルの東側や西側の側面を吹きぬけ、風速が1.4倍〜2.4倍増速される。ビル風は10階以上のビルに現れやすいため、高層ビル周辺で移動式クレーン等を使用する時にはビル風に注意する必要がある。
5 台 風
 熱帯低気圧が発達し、最大風速が17m/秒以上になると、台風と呼ばれる。台風の中心は、気圧が低く、周囲から空気が吹きこんでいる。地球の北半球では、自転の影響で左巻きの渦巻きとなって進む。このため、台風の中心より右側では、吹きこむ風に台風の進む力が加わり、風の強さが増大される。その反対に、左側は風の力が弱まる。
6 旋 風
 西高東低型の気圧配置において、低気圧が発達しながら大陸から北海道東岸を抜ける時、台風なみの暴風が発生することがある。この風を旋風という。シベリア方面の寒冷な気流と日本付近の温暖な気流が接触すると、重い寒冷気流が軽い温暖気流の下に流れ込み、温暖気流が不連続線に沿って上昇する。この両気流が左回りの旋回流を作り、旋風が発生する。
7 冬季季節風
 冬季に見られる西高東低型の気圧配置は、日本付近の等圧線が南北に並び、風は高気圧を左に低気圧を右にみて低気圧側に吹きつけるため、北西風が吹く。冬季季節風の最大風速は20m/s前後で、広い範囲に吹きつける特徴がある。

 ● 高所おける風速の変化

 風速は、地上からの高さが高くなるほど大きくなる。地域的に見ると、平地よりも大都市の方が地上からの高さによる風速の変化が大きい。

高さ 風速平均5m/秒 風速平均8m/秒 風速平均10m/秒
海上 平地 市街 海上 平地 市街 海上 平地 市街
10 5.0 5.0 5.0 8.0 8.0 8.0 10.0 10.0 10.0
15 5.3 5.4 5.6 8.4 8.6 8.9 10.5 10.7 11.1
20 5.5 5.6 6.0 8.7 9.0 9.5 10.9 11.2 11.9
25 5.6 5.9 6.3 9.0 9.4 10.1 11.2 11.7 12.6
30 5.8 6.0 6.6 9.2 9.6 10.6 11.5 12.0 13.2
40 6.0 6.3 7.1 9.5 10.1 11.3 11.9 12.6 14.1
50 6.1 6.6 7.5 9.8 10.5 12.0 12.2 13.1 15.0
75 6.5 7.0 8.3 10.3 11.2 13.2 12.9 14.0 16.5
100 6.7 7.4 8.9 10.6 11.8 14.2 13.3 14.7 17.8
125 6.9 7.6 9.4 11.0 12.2 15.0 13.7 15.2 18.8
150 7.0 7.9 9.9 11.2 12.6 15.8 14.0 15.7 19.7
200 7.3 8.3 10.5 11.6 13.2 16.9 14.5 16.5 21.1
                       風速換算表(概算)

 ● 吹流しによる風速測定

 強風が吹く恐れがある時は、気象情報に注意し、風が強くなる前に移動式クレーンの設置場所や作業に応じた対策を実施する必要がある。このため、クレーン本体や工事現場に風力計を取付け、風の動向を把握することが望ましい。しかし、工事期間や移動式クレーンによっては取付けが困難な場合があるのが実情である。これらの状況に左右されずに、すべての作業員が風速を認識するためには、吹流しを使用する方法が効果的といえる。

        
吹流しの状態 風の強さ 風 速(m/s)
垂れ下がっている 静 風 00〜1.5
垂直から30°傾く 軟 風 1.5〜3.5
垂直から60°傾く 和 風 3.5〜6.0
垂直から80°傾く 疾 風 6.0〜10.0
水平になる 強 風 10.0〜15.0
                      日本農業気象学会資料

強風時の移動式クレーンの作業中断等の措置

 強風時における作業中断等の処置は、様々な条件によって異なるため、工事現場に最も合った方法を定める必要がある。
● 現場作業の一時中断
  強風によりクレーン作業を中断する場合は、原則としてクレーン作業を直接担当する作業
 指揮者が作業内容と風の強さを考慮して決定する。
● 作業中止及び再開
  強風により当日のクレーン作業が困難であるかの判断は、作業指揮者が現場責任者と協議
 を行って決定する。
● 気象情報に関する情報収集と伝達
  強風等の気象情報の収集と伝達方法を工事事務所ごとに定め、朝礼等によって情報を伝達
 し、風の影響を受けるクレーンの作業について確認する。風速計や吹流しを設置し、工事現
 場に適した風速換算表や風力階級表の配布ならびに指導を行う。

風 力 名 称 相当風速(m/s) 陸上における状態
0 静穏 0.3未満 煙がまっすぐ昇る
1 至軽風 0.3〜1.6 煙のたなびきで風向きが分かる
2 軽風 1.6〜3.4 顔に風を感じる
3 軟風 3.4〜5.5 木の葉や細い小枝が絶えず動く
4 和風 5.5〜8.0 砂ぼこりが立ち、紙片が舞い上がる
5 疾風 8.0〜10.8 葉のあるかん木が揺れ始める
6 雄風 10.8〜13.9 大枝が動き、傘はさしにくい
7 強風 13.9〜17.2 風に向かって歩きにくい
8 疾強風 17.2〜20.8 小枝が折れ、風に向かって歩けない
9 大強風 20.8〜24.5 煙突が倒れ、瓦がはがれる
10 暴風 24.5〜28.5 人家に大損害が起こる
11 激風 28.5〜32.7 滅多に起こらないが広範囲の破壊を伴う
12 颶風 32.7以上 広範囲が破壊される
備 考 1. 気象庁では、風力を階級で表す。
2. 気象通報でいう風速とは、周囲100m程の間に障害物がない地面上10mにおいて、風速
 計によって10分間観測した平均値。
3. 瞬間風速は、平均風速の1.5〜1.7倍程度速い。
4. 風速8以上を台風いう。

 ● 悪天候時の移動式クレーンの留意事項

 移動式クレーンは、風により安定度、強度及び操作に大きな影響を与えるため、事故につながる恐れがある。平成4年10月にクレーン等安全規則が改正され、強風時の作業中止について定められた。野外での作業は、天候の影響による移動式クレーンの転倒や荷振れ等の危険防止のために気象に注意し、危険が予想される時には作業を中止しなければならない。
1. 移動式クレーンの作業は、10分間の平均風速が10m/s(強風)以上の場合は、作業を中止 し
 なければならない。箱型構造ジブの移動式クレーンはクレーンを走行姿勢にし、平坦な場所
 を選んでアウトリガ、駐車ブレーキ、車止め等を用いて駐車する。ラチス構造の移動式クレ
 ーンは、タワージブを折りたたみ、ジブを地上に倒し、旋回ブレーキを掛ける。平均風速が
 10m/s以下であっても、風を受ける面積の広いつり荷の作業では、荷の振れや回転による狭
 圧、衝突災害の恐れがあるため、強風時の作業は中断する必要がある。
2. ひと降りの雨量が50mm以上の時は、視界が悪く、玉掛作業者の足元が滑りやすくなる等の
 危険が予測されるため、作業を中止する。移動式クレーンは、アウトリガの沈下等が起らな
 いように養生し、作業再開時は雨の影響によるクラッチ、ブレーキのライニングの滑りを防
 止するためにライニングを乾燥させてから作業を行う。雷が接近した時は、ジブへの落雷を
 避けるために作業を中止し、ジブを走行姿勢にして退避する。
3. ひと降りの積雪が25cm以上の時は、作業を中止する。降雪時の作業では、ワイヤロープに
 付着した雪がシーブの溝に付着し、ワイヤロープがシーブから外れたり乱巻きなることがあ
 るため、注意する必要がある。

つり荷走行

 ラフテレーンクレーンで荷をつって走行することは、原則として禁止されている。やむを得ず荷をつって走行する時は、次の事項を遵守しなければならない。
1. つり荷走行姿勢の移動式クレーンは、前方、側方、後方の性能が大きく異なる。機体正面に
 荷がない場合は、アウトリガを一旦張り出す又はクレーンを移動させて機体の正面で荷をつ
 る。
2. タイヤの空気圧を規定圧にし、かつ、サスペンションロックシリンダを最も縮小した状態に
 する。
3. ジブを縮小状態にする。(補助ジブは使用禁止)
4. 走行は、できるだけ低速(2km/h以下)で、直進のみで走行する。移動式クレーンを走行さ
 せる時は、旋回ブレーキ、ドラムロック、巻上げレバーロックを掛ける。
5. 走行する地盤が水平で、タイヤの接地圧に耐えられることを確認する。地盤が軟弱な場合や
 傾斜又は凸凹がある場合は、つり荷走行は行ってはならない。
6. メーカが示すつり荷走行の前方領域のジブ角度や定格総荷重は、水平堅土において使用した
 時の数値である。したがって、つり荷の質量は前方領域のジブ角度を超えないように余裕の
 ある荷重でなければならない。
7. つり荷は、地切り程度の高さを保持し、添えロープ等で荷を機体側に引き寄せる又はフロン
 トバンパで支える等して荷振れを起こさないようにする。
8. アウトリガを有するものは、アウトリガを張り出し、アウトリガフロートを地上から少し上
 げた状態で走行する。
9. 急ハンドル、急発進、急ブレーキ、変速操作、つり荷走行中のクレーン操作、つり荷の自由
 降下等は行わない。                 

共つり作業

 複数の移動式クレーンを用いて1つの荷をつる共つり作業は、原則として禁止されている。やむを得ず共つり作業を行う場合は、危険を伴う作業であることから、一定の条件の元、作業指揮者の直接指揮により行わなければならない。共つり作業を行う場合は、計画及び作業手順を作成し、事前に工事関係者と作業手順、つり方について十分に打ち合わせを行い、作業者に周知徹底させる。共つり作業に使用する移動式クレーンには、なるべく同一機種、同一性能の上、つり荷に対して十分に余裕のある能力のものを使用する。また、適切な配置によって、極力、巻上げのみで作業が完了する方法を用い、定められた合図者の合図に従って慎重に運転しなければならない。

     
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