移動式クレーンの性能

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 移動式クレーンの取扱いにあたっては、運転するクレーンの性能、機能等を十分に把握し、定められた作業手順に従って、クレーン作業を効率的、かつ、安全に行うことが求められている。



移動式クレーンの性能

 移動式クレーンの性能は、次の3つの要素からなり、その要素の最も小さな値によって性能が定められている。
● 移動式クレーンの性能の要素
  1. 機体の安定(移動式クレーンが転倒するかどうか!)
    機体が転倒しない安定性を許容できる荷重
  2. 機械装置及びジブ等の構造部品の強度(破壊するかどうか)
   ジブその他の構造部品が破壊に至らない強度を許容できる荷重
  3. 巻上装置の能力とロープの強度(荷を巻上げる力があるかどうか)
   巻上装置及びワイヤロープの能力により巻上げることが許容できる荷重

 移動式クレーンの性能の要素を図で示すと、次のような性能曲線になる。この性能曲線図は「移動式クレーンの定格総荷重は、作業半径が大きい場合は、安定度によって定められる。作業半径が小さい場合はジブその他の強度によって定められる。更に作業半径が小さい場合は、巻上装置の能力とワイヤロープの強度により定められる。」ことを示している。作業半径が大きい時のオーバロード(過負荷)は移動式クレーンが転倒し、作業半径が小さい時のオーバロ
ードはジブその他の構造部品の破損を招く恐れがある。

    

安定度

 安定度は、移動式クレーンの転倒に対する安定性を示すものである。 転倒支点から機体側に働く安定モーメントを分子、転倒支点からつり荷側に働く転倒モーメントを分母とする比で安定度を表し、この値が大きいほど安定であるといえる。
 図の移動式クレーンの場合、転倒支点から機体側に働く安定モーメント[クレーン本体質量×転倒支点から機体重心までの距離]と、転倒支点からつり荷側に働く転倒モーメント[ジブの質量×転倒支点からジブ重心までの距離+(つり荷の質量+つり具の質量)×転倒支点からつり荷までの距離]の比を安定度という。 移動式クレーンは、安定性を確保するために、ジブの質量を考慮した前方安定度や、無負荷時の後方への転倒を避けるための後方安定度等の基準が移動式クレーン構造規格ならびにクレーン等安全規則に定められている。

        
            

 ● 転倒支点

 アウトリガを使用する移動式クレーンは、つり荷側の機体を支持するアウトリガフロート中心が転倒支点である。左右のアウトリガの張出幅が異なっている場合、つり荷を張出幅の大きい方から小さい方へ旋回させると、安定モーメントは小さく、転倒モーメントは大きくなり、安定性が悪くなって転倒する恐れがある。クローラクレーンは、前方つりの時はクローラのスプロケットの中心が転倒支点になる。つり荷を側方に旋回した時は、つり荷側のクローラ中心が転倒支点になる。

    

 ● 後方安定度

 後方安定度は、移動式クレーンの後方への転倒に対する安定性を示したものである。荷をつらない状態でアウトリガを使用せず、ジブの長さを最短、傾斜角を最大にした時、ジブ側の転倒支点に移動式クレーンの質量に重力加速度を乗じた値の15%以上が残っていなくてはならない。ただし、アウトリガの張出幅を自動的に検出し、ジブの傾斜角や旋回角度を制限して後方安定度を確保できる安全装置を備えている移動式クレーンについては、アウトリガを使用した状態で計算することができる。移動式クレーンの安定度を向上させるため、旋回体後方にカウンタウエイトを装備している。しかし、規定以上にカウンタウエイトを増やし過ぎると、無負荷時の後方安定度が悪くなる。負荷時において巻上用ワイヤロープや玉掛用ワイヤロープ等が切断すると、機体が後方に転倒する恐れがあるため、規定以上にカウンタウエイトを増やしてはならない。

             

 ● ジブ傾斜角検出装置

 ジブ傾斜角検出装置は、振り子で作動する可変抵抗器を制動用の油で満たしたケースに収めこれを主ジブ側面に取付け、水平面とのなす角度によって傾斜角を検出している。可変抵抗器のフランジ軸は、振り子のおもりによって常に垂直になる。主ジブに固定されている抵抗体はジブの動きと共に角度が変化するため、抵抗の接点が変わる。この可変抵抗器に電圧を加え、ジブ角度に応じた抵抗値の変化を読み取って傾斜角を検出している。

 ● ジブ長さ検出装置

 ジブ長さ検出装置の自動巻取式コードリールを主ジブに取付け、コードの端をジブ先端に固定する。ジブの伸縮により、コードリール巻取部のギヤが回転し、これに連動して可変抵抗器のブラシが移動する。ジブ長さは、この抵抗値の変化した電圧を読み取って検出している。

 ● アウトリガ張出幅検出装置

 アウトリガ張出幅検出装置を備えた移動式クレーンは、小型の自動巻取コードリール式検出装置をアウトリガボックス後部に取付け、コードの端をアウトリガビムに固定し、アウトリガの張出幅を自動検出している。

 ● 作業領域制限装置

 作業領域制限装置は、限られた範囲や障害物の多い場所で作業を行う場合、ジブ長さ、起伏角度、旋回角度を任意に制限し、設定以外の作動を自動停止させるものである。これにより、障害物に接触する等のクレーン災害を防止している。この作業領域制限機能により、同一工程のクレーン作業を繰り返し行うことができる。

 ● 旋回自動静止装置

 移動式クレーンの設置場所によっては、アウトリガの張出幅を全周同一にすることが困難な場合がある。このような時のクレーンのつり上げ能力は、上部旋回体の向きよって著しく異なるため、機体の転倒を招く恐れがある。旋回自動静止装置は、過負荷防止装置の数値やアウトリガ張出幅の数値を読み取り、旋回モータの油圧を検出して旋回コントローラで機体の旋回を制御し、制御域でゆるやかに旋回を停止させるものである。

 ● 過負荷防止装置の表示部

 過負荷防止装置の表示部は、ジブ長さ、作業半径、傾斜角、定格総荷重等の情報を表示したり入力を行うもので、アナログ式やデジタル式の各種の装置をメーカ各社が開発している。

揚程図 / 定格総荷重表

 移動式クレーンの作業を安全に行うためには、つり荷の質量、揚程、作業半径を確認し、作業半径、揚程図及び定格総荷重表によって最も作業に適した移動式クレーンを選択しなくてはならない。移動式クレーンの定格総荷重は、作業半径が大きい場合は安定度により定められ、作業半径が小さい場合はジブその他の強度によって定められている。定格総荷重表は、太線の境界線で区分され、太線から上は強度、太線から下は安定度によって定められている。太線から上の定格総荷重を超えると、ジブの座屈等の機体の損傷を招く。太線から下の定格総荷重を超えると、機体の転倒を招く。

 ● 作業半径・揚程図

 作業半径・揚程図は、ジブの長さや補助ジブの長さ及びジブ起伏傾斜角によって変化する作業範囲を示している。移動式クレーンは機種によって1目盛りが1m、2m、5m等の表示になっている。作業半径・揚程図には、ジブのたわみは含まれていないため、実際に荷をつった時の作業半径は、ジブのたわみによって若干大きくなり、定格総荷重の値は小さくなる。このため実際に荷をつる時にはジブのたわみを考慮し、余裕ある作業条件を設定しなくてはならない。
 下図の右側は作業半径・揚程図のジブ部分を拡大したものである。ジブポイントピンとフックの最下部の位置は、同一作業半径上にある。作業半径とは、旋回中心からジブポイントピンよりおろした鉛直線までの水平距離をいう。したがって、作業半径・揚程図の作業半径はジブポイントピンからの鉛直線が示す数値を読みとれば、作業半径が分かる。揚程とは、ジブ長さや傾斜角に応じたフック等のつり具を有効に上下させる上限と下限との間の垂直距離をいう。揚程図の揚程は、フックの最下部からの水平線が指し示す揚程の数値を読みとればよい。 実際に作業半径・揚程図を見る時は、求めるジブのジブポイントピンを探し、そのジブポイントピンから真っ直ぐに作業半径の数値が書かれている横軸まで直線を下ろし、その指し示した数値を読みとって作業半径を確認する。揚程は、ジブポイントピンからフックの最下部を示す曲線まで真っ直ぐに直線を下ろし、この点から揚程の数値の書かれている縦軸まで水平線を引き、その指し示す数値を読みとって揚程を確認する。

   

 ● 定格総荷重表

 定格総荷重表は、アウトリガの張出幅、ジブ長さ、補助ジブ長さ、補助ジブオフセット角、作業半径等の作業条件から定格総荷重を求めるものである。定格総荷重表には、ジブ(ブーム)のたわみを含んだ実際の作業半径が示され、その数値にはフック等のつり具の質量が含まれている。

          

● 定格総荷重表の見方(上記の定格総荷重表は、ジブ長さをブーム長さとしている。)
  1. ジブ長さが30.5m、作業半径が16.0mの場合の定格総荷重は3.45t
   ※ ジブ長さ30.5mの欄と作業半径16.0mの行の交わる数値を読む。
    実際につることができる定格荷重は、つり具の質量を300kgとすると
     3.15t(3.45−0.3)
  2. ジブ長さが16.5m、作業半径が5.5mの場合の定格総荷重は15.6t
   ※ ジブ長さ16.5mの欄と作業半径5.5mの行の交わる数値を読む。
 <例題>
   質量21t の荷をつる時の最大作業半径の求め方。ただし、つり具の質量は300kgとする。
     質量21t の荷をつるためには、荷の質量につり具の質量を加えた値を超え、かつ、最
   も作業半径が大きい定格総荷重を求める。荷の質量につり具の質量を加えると
    21.3t(21+0.3)
  定格総荷重表のジブ長さ 9.5m、作業半径4.0mの定格総荷重は23.0t
  この数値が質量21t の荷をつることができる最大作業半径である。

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