ワイヤロープは、移動式クレーンの巻上装置や起伏装置等に使用されています。移動式クレーンには、構造的にバランスのとれた6ストランドのワイヤロープが一般的に使用されています。
ワイヤロープは、良質の炭素鋼を線引き加工した継ぎ目のない鋼線をより合せてストランド(子なわ)を作り、更にストランドを一定のピッチで心網に巻きつくようにより合せている。柔軟で強靭なワイヤロープは、曲げ応力に強く、切断(破断)の前触れを予想できる等の優れた特徴がある。
● 心網(繊維心と鋼心の総称)
● 素線(ストランドを構成する鋼線)
● ストランド(複数の素線をより合せたもの)
ワイヤロープの中心に入れて心にしたもので、鋼心や繊維心等がある。
1. 鋼心
鋼心にはロープ心とストランド心があるが、クレーンにはロープ心によるワイヤロープが
使用されている。ロープ心は、独立した1 つのロープを心にしたもので、繊維心に比べて破
断荷重が大きく強度があり、ロープの伸びや径の減少及び側圧による形崩れに強く、耐熱性
に優れている。ストランド心によるワイヤロープは、ストランドを心にしたもので、特殊な
用途に僅かに用いられている。
2. 繊維心
繊維心には、天然繊維心と含油性を高めた合成繊維心があり、用途に応じて使い分けられ
ている。繊維心は、ワイヤロープの潤滑と防錆のため、ロープ内部からグリースを補給でき
るようにグリースを含ませている。鋼心に比べてロープの柔軟性が大きく、衝撃や振動を吸
収するため、玉掛用ワイヤロープとして広く用いられている。
ワイヤロープのより方とストランドのよりの方向が反対のものを「普通より」、ワイヤロープのより方とストランドのよりの方向が同じ方向のものを「ラングより」という。また、ワイヤロープのより方には、Zより(左より)とSより(右より)があり、通常は「普通Zより」のワイヤロープが使用されている。グラブバケットの開閉ロープと支持ロープは、互いのロープが絡み合うことを防ぐためにZよりとSよりのロープを使用して、ロープのより戻りを互いに打ち消す方法が用いられている。
1よりの長さが短く、素線はロープ軸にほぼ平行。よりが締まってキンクしにくく、取扱いは容易だが、磨耗性と疲労性においてラングよりに劣る。
1よりの長さが長く、素線はロープ軸に対してある角度をなす。素線が平均に摩擦を受けるため耐磨耗性に優れ柔軟で耐疲労性は良いが、ロープの自転性が大きくキンクを生じやすい。
1ストランド中の素線数が24本、ストランドの数が6本の24本線6よりのワイヤロープは、「6×244」と表示する。また、全素線数は6×24を乗じた144で求めることができる。ワイヤロープは、ロープの構成、裸又はメッキの別等を文字で表現すると繁雑になるため,構成記号によって表示される。
心の種類の記号 | ||||||
繊維心 | FC | 通常は表示しない | ||||
ロープ心/ストランド心 | IWRC/IWSC | IWSCは通常表示しない | ||||
ストランドのより方の記号 | ||||||
一 般 | フラット形 | シール形 | ウォーリントン形 | フィラー形 | ウォーリントンシール形 | セミシール形 |
表示せず | F | S | W | Fi | WS | SeS |
構成記号 | ||||||
心の種類・ストランド数×ストランドのより方・1ストランド中の素線数 |
移動式クレーンの巻上げや起伏のワイヤロープにはロープ心(IWRC)が用いられている。IWSC及びCFRCのワイヤロープは、特殊な用途に使用されている。フィラー形のワイヤロープは、ストランドを構成する素線の間にフィラー線(細い素線)を組合せ、素線同士が互いに線状に接触するようにより合せたもので、形崩れや局部的摩擦による素線の断線が少ないため、近年はフィラー形のワイヤロープが多く使用されている。
構成 | 37本線6より | フィラー形29本線6より | フィラー形29本線 6よりロープ心入り |
ウォーリントン形 19本線6より |
構成 記号 |
6×37 | 6×Fi(29) | IWRC6×Fi(29) | 6×W(19) |
断面 | ![]() |
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ワイヤロープの径には、公称径(呼び径)と実際径(実測径)がある。製造時のロープ径の許容差は、JIS(日本工業規格)によって公称径10mm未満は0〜10%、10mm以上は0〜7%と定められている。ワイヤロープの実際径は、外接円の同一断面を3方向からノギスで測定し、その平均値をミリメ−トル(mm)で表示している。
移動式クレーンに使用されているワイヤロープは、ロープが切断する荷重(切断荷重又は破断荷重という)よりも低い荷重を使用限界荷重に設定して安全性を高めている。この使用限界荷重を設定するための数値を安全率(安全係数)という。例えば、切断荷重が10t の巻上用ワイヤロープの安全率を5とした場合、そのロープには2t以上の荷重を掛けてはならないとしたものである。移動式クレーンに使用されるワイヤロープの安全係数は、用途により次のように定められている。
安全率 | |
巻上用ワイヤロープ | 4.5以上 |
ジブ起伏用ワイヤロープ | 4.5以上 |
ジブ伸縮用ワイヤロープ | 3.55以上 |
ジブ支持用ワイヤロープ | 3.75以上 |
● 安全率(安全係数) ワイヤロープの切断荷重(破断荷重)をロープに掛かる荷重の最大値の安全荷重で除した値。 ● 切断荷重(破断荷重) ワイヤロープの破断試験において試験片が破断に至る時の最大の荷重。JISでは破断荷重と いう。 |
ワイヤロープの端末処理には、ドラム側に取付ける端末処理とドラム以外の端末処理がある。
1. ワイヤロープの端末がばらけていると、ワイヤロープがソケットやドラムから抜け出るこ
とがあるため、ワイヤロープの端を針金等で解けないように巻きつける。
2. 方向を間違えないようにクサビを取付ける。
3. ワイヤロープの端末をドラムの外周に出さないようにする。
1. ワイヤロープの端を針金等で解けないように巻きつける。
2. ソケットに正しい方向でワイヤロープを通し、方向を間違えずにクサビを取付ける。
3. ナットが引張側に来るように正しい方向にロープクリップを取付ける。
新しいワイヤロープを巻上用ドラムに取付けた直後や、質量の大きい荷をつり上げた際に、ロープのよりが戻って巻上用ワイヤロープにねじれが生じることがある。荷の荷重が増す程、揚程が大きい程、よりが戻る傾向は強くなる。また、純正品ではない質の悪いロープの場合もねじれが生じやすい。巻上用ワイヤロープにねじれが生じた場合は、次の手順によりねじれを直す。ただし 一度に5 回以上はねじり直さないようにしなければならない。巻上用ワイヤロープをねじり直した後は、ロープソケットをクレーンに取付け、ジブ起伏角度を大きく、ジブを長く伸ばし、荷をつらないで全揚程間を3〜4回程往復運動させた後に、ある程度の荷重の荷をつってねじれが生じないことを確認する。この方法を数度繰り返しても、ねじれが解消しない場合は、ドラム側とフック側のワイヤロープを逆につけ直したり、思い切って新しい巻上用ワイヤロープと交換又は非自転性のワイヤロープを使用する。
ドラム以外のワイヤロープの端末処理には、次のような方法がある。合金止めの効率が最も高く、くさび止めは他の端末処理と比べると効率が劣る。
取付方法 | 略 図 | 効率(%) | 備 考 |
合金止め (ソケット止め) |
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100% | 合金又は亜鉛鋳込法 ワイヤロープの端末をソケットに差し込み、ソケットの中に合金を鋳込む |
クリップ止め | ![]() |
75〜85% | 増し締めが必要 加工の不適当なものは50%以下の効率 |
くさび止め (コッタ止め) |
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60〜80% | ロープの固定作業は簡単だが効率は劣る。加工が不適当なものは50%以下の効率 |
アイスプライス | ![]() |
75〜90% | ロープ径 14mm以下の効率は95% 16mm〜26mmの効率は90% 28mm〜38mmの効率は80% 39mm以上の効率は70〜75% |
圧縮止め | ![]() |
90〜100% | 特殊アルミ合金の管をプレス加工 |
クリップ止めは、引張力の大きい引張側にクリップのナットがくるように取付ける。また、クリップに取付けたロープの間に隙間ができないようにナットを均等に締め付ける。
ドラムの1層目のワイヤロープの巻き方が悪いと、ロープの間に隙間ができて乱巻きになりやすい。ワイヤロープは、張力を掛けながら固く均等に巻き、ロープを叩く時は鉛か真鍮のハンマーを用いる。また、新しい巻上用ワイヤロープをドラムに取付けた直後は、定格荷重の半分程度の荷重をつり、低速で巻上げ、巻下げの操作を数回行う。ワイヤロープを馴染ませることで、ロープの寿命を延ばす効果がある。
移動式クレーンのドラムの巻上用ワイヤロープに掛かる荷重をロープ押え等の金具が直接受けると、ドラムからロープが抜け落ちる恐れがある。ワイヤロープを最も多く繰り出してもドラムにロープが2巻以上残っていれば、ロープの巻き締めの力でロープに加わる張力を支えることができるため、ロープの取付部分には大きな力が掛からない。この余分な巻数を捨巻きといい、構造規格で2巻以上と定められている。したがって、ドラムに取付けるワイヤロープの長さは、フックブロック等のつり具を最大に巻下げた時に最低2巻以上ドラムに残るようにしなければならない。