安全係数を考慮し、玉掛用ワイヤロープやチェーン等の1 本のつり具で垂直につることができる最大の荷重(質量)を基本安全荷重(安全荷重ともいう。)又は基本使用荷重といいます。つまりは、1本のつり具で実際につることができる最大の荷重です。
図のような荷を玉掛用ワイヤロープ2本でつった時、荷の質量Wはロープに掛かる張力F1、F2の合力Fになる。ワイヤロープのつり角度が0度以上の場合の張力F1、F2は、Fの1/2よりも大きい値になる。つり角度が大きくなるに従い、張力F1、F2は更に大きくなり、ワイヤロープを内側へ引き寄せようとする力(P)が大きくなる。この水平分力Pは、圧縮力としてつり荷に働くため、玉掛作業においてはつり角度が大きくならないように注意する必要がある。
玉掛用ワイヤロープ1本に働く張力は、図のようにつり角度が0 度の場合は1.0倍だが、つり角度が120度になると2倍になる。たとえば、玉掛用ワイヤロープ2本を用いて200kgの荷をつる時、つり角度が0 度の場合は、玉掛用ワイヤロープ1本に100kgの荷重が掛かる。つり角度が120度では、玉掛用ワイヤロープ1本に200kgの荷重が掛かる。このつり角度と張力の比を「張力係数」という。
つり角度 | 張力係数 | つり角度 | 張力係数 | ![]() |
0度 | 1.00倍 | 90 | 1.41 | |
30 | 1.04 | 100 | 1.56 | |
60 | 1.16 | 110 | 1.75 | |
70 | 1.23 | 120 | 2.00 | |
80 | 1.31 | 130 | 2.37 |
玉掛用ワイヤロープ1本に働く張力の大きさは、ワイヤロープの掛け数とつり角度によって異なる。基本安全荷重が同じワイヤロープの場合、1本のワイヤロープでつることができる最大の荷重は、ロープの本数に比例する。玉掛用ワイヤロープのつり角度があまりにも大きい場合は、フックからワイヤロープが外れやすくなる。このため、つり角度は原則として60度以下で使用する必要がある。使用する玉掛用ワイヤロープの長さが異なる場合は、ワイヤロープの張力が異なるため、注意する必要がある。
ワイヤロープ等のつり具は、 動的な荷重が加わって繰返して使用されることにより疲労が起こる。このため、この点を考慮して玉掛用具に破断に至らない数値を基準に設け、その基準値以下で使用することで安全を確保している。この安全に使用できる限度となる基準を「安全荷重」といい、次の式で表すことができる。玉掛用具の安全係数(安全率ともいう。)は、クレ
ーン等安全規則で下記の表のように定められている。安全係数とは、破断に至るまでに最大につることができる荷重に対し、どの程度まで安全を確保するのかを数字で示したものである。たとえば、玉掛用ワイヤロープの破壊に至る荷重を10t
とした時、そのワイヤロープで10t の荷つると、ロープは簡単に破壊されてしまう。そこで、破壊に至る荷重を10t と想定される時の安全係数を5
とし、安全荷重を2tとにしておけば、仮に想定外の事態が起こっても玉掛用ワイヤロープの破壊を防ぐことができる。安全係数は、高ければ高いほど良いが、安全係数を高め過ぎるとコスト高を招く。したがって、破壊時の影響とコストのバランスを考慮して安全係数は設定されている。
つり具の種類 | 安全係数 |
玉掛用ワイヤロープ | 6以上 |
玉掛用つりチェーン | 5以上(一定の要件を満たすものは4以上) |
玉掛用フック、シャックル | 5以上 |
繊維ロープ | 定められていない。 |
玉掛用ワイヤロープ1本に掛かる張力を張力係数によって求めることにより、使用することができる玉掛用ワイヤロープを選定することができる。たとえば、質量4tの荷をつり角度30度で2本つりする場合のワイヤロープ1本に掛かる張力は
玉掛用ワイヤロープの安全係数は、クレーン等安全規則において6以上と定められている。したがって、この玉掛用ワイヤロープに必要な切断荷重は
玉掛用ワイヤロープに必要な切断荷重=20.384×6=122.304kN
これにより、質量4tの荷をつり角度30度で2本つりする場合は、切断荷重が122.304kN以上の玉掛用ワイヤロープを選択しなければならないことが分かる。
<例題 1>
図のような質量8tの荷をつり角度90度で4本つりする場合、このような時に使用することができる最小径の玉掛用ワイヤロープの選定。ただし、ロープの直径及び切断荷重は記載の通りとする。
つり角度90度の張力係数は、1.41 。したがって、ワイヤロープ1本に掛かる張力は
ワイヤロープ1本に掛かる張力=8/4×9.8×1.41=27.63kN
玉掛用ワイヤロープの安全係数は、6以上でなければならない。したがって、この玉掛用ワイヤロープ1本に必要な切断荷重は
切断荷重=27.63×6=165.78kN
これにより、165.78kN以上の切断荷重を有する玉掛用ワイヤロープには、切断荷重174.4kN、直径18mmのワイヤロープを選択しなければならない。
<例題 2>
図のような形状のコンクリート製の直方体を2本の玉掛用ワイヤロープを用いてつり角度70°でつる時、1本のワイヤロープに掛かる張力の値に最も近いものはどれか。ただし、コンクリートの1m3当たりの質量は2.3t、重力の加速度は9.8m/s2、cos35°=0.82とし、ワイヤロープ及び荷のつり金具の質量は考えないものとする。
直方体の質量=直方体の体積×コンクリートの単位体積当たりの質量
=縦×横×高さ×コンクリートの単位体積当たりの質量
=1×1×2×2.3=4.6t
この問題は、張力係数を用いずにcos35°=0.82を使用して解くことができます。ワイヤロープ1本に掛かる張力には、次の式が成り立ちます。
ワイヤロープ1本に掛かる張力=物体の質量×98/(つり本数×cos35°)
したがって、ワイヤロープ1本に掛かる張力の値に最も近いものは
ワイヤロープ1本に掛かる張力=(4.6×98)/(2×0.82)
=45.08/1.64
≒27.487≒275kN
本試験には、三角関数であるコサインを用いた問題が出題されるようになりました。したがって、コサインを用いた問題の解き方も理解しておく必要があります。
<例 題 >
図のような4.6tの直方体の物体を2本の玉掛用ワイヤロープを用いて、つり角度70°でつる時、1本のワイヤロープに掛かる張力の値の求め方。ただし、重力加速度は9.8
m/S2、cos35°=0.82とし、ワイヤロープ及びつり金具等の質量は考えないものとする
玉掛用ワイヤロープの掛数及びつり角度の影響を考慮し、ある掛け本数とつり角度の時につることができる最大の質量と基本安全荷重の比を「モード係数」という。安全荷重(質量)、基本安全荷重、モード係数の関係は、次の式で表すことができる。
モード係数は、本来、玉掛用ワイヤロープのつり角度によってすべての値が異なるが、実作業での使用上の便宜を図るため、つり角度を一定間隔で区切り、その範囲内を同一の値としている。玉掛用具の掛本数の区分に応じたモード係数を示した表は、「モード係数表」 という。
掛け本数及びつり角度によるモード係数 | |||||
掛け数 | 0度 | 0度を越え 30度以下 |
30度を越え 60度以下 |
60度を越え 90度以下 |
90度を越え 120度以下 |
1本つり | 1.0 | ― | ― | ― | ― |
2本つり | 2.0 | 1.9 | 1.7 | 1.4 | 1.0 |
3本つり | 3.0 | 2.8 | 2.5 | 2.1 | 1.5 |
4本つり | 4.0 | 3.8 | 3.4 | 2.8 | 2.0 |
厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課編
「玉掛作業の安全に係るガイドライン」より
掛け本数が4本の場合は、玉掛用ワイヤロープに荷重が均等に掛かりにくいため、4本掛けであっても、原則として3本掛け用のモード係数を使用する必要がある。ただし、4本のワイヤロ
ープに均等な荷重が掛かる場合は、4本掛用のモード係数を使用しても差し支えない。
質量3.4tの荷を2本の玉掛用ワイヤロープを使用し、つり角度60度でつる時の玉掛用ワイヤロープの選定方法。この場合は、モード係数表の2本つりの行と、つり角度60度以下の列の交わる枠の数値を見る。したがって、モード係数1.7により、ワイヤロープの基本安全荷重は
質量3.4tの荷を4本の玉掛用ワイヤロープを使用し、つり角度60度でつる時の玉掛用ワイヤロープの選定方法。この場合は、モード係数表の4本つりの行と、つり角度60度以下の列の交わる枠の数値を見る。これにより、モード係数は3.4だと判る。つまり、4本つりのモード係数は、2本つりのモード係数の値の2倍である。したがって、ワイヤロープの基本安全荷重は
基本安全荷重2t の玉掛用ワイヤロープを2本使用し、つり角度60度で安全につることができる最大の荷重(質量)の求め方。この場合は、モード係数表の2本つりの行と、つり角度60以下の列の交わる枠の数値をみる。したがって、モード係数1.7により
安全荷重(質量)=基本安全荷重×モード係数
=2×1.7
=3.4t
これによ、基本安全荷重2tの玉掛用ワイヤロープを2本使用し、つり角度60度でつる場合には、最大3.4tまでの質量の荷を安全につることができることが判る。